El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ドクター・ホンタナの薬剤師の本棚(2)

f:id:yasq:20200511004819p:plain免疫学が好き!苦手が得意になる3冊

薬剤師のみなさん、こんにちは!ドクター・ホンタナ(Fontana)です。薬剤師が読んで楽しめ、なおかつ仕事にも役立つ、そんな本を紹介するコラムの第2回は題して「免疫学が好き!」。私にとっても苦手分野だった免疫学を得意分野にしてくれた、とっておきの愛読書・講談社ブルーバックスの「現代免疫物語」三部作を紹介します。
なぜここで免疫学・・・? なぜなら21世紀になって薬剤の世界で最大のイノベーションは抗体医薬などの生物学的製剤だからです。ノーベル賞を受賞した本庶佑先生の「オプジーボ」が有名ですよね。森元首相の進行肺がんに著効したことはご本人も広言しています。
現代の免疫学は意外と歴史が浅いんです。分子生物学を土台に1970年代後半から急激に発展しました。ということは、この50年間の出来事が免疫学のすべてといってもいいくらいです。そんなに急激に発展した免疫学、今ある教科書だけ読んでもいきなり難しい話になって理解できません。そこで超オススメしたいのが免疫学の進歩と歩調を合わせるように20年にわたって出版された「現代免疫物語」シリーズ三部作。と、言っても講談社ブルーバックスという新書ですからお値段控えめ、中身しっかりです。ラインナップは・・
①「現代免疫物語 花粉症や移植が教える生命の不思議」(2001年発刊・2007年改訂)
②「新現代免疫物語『抗体医薬』と『自然免疫』の驚異」(2009年発刊)
③「現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病」(2016年発刊)

この三冊がそれぞれ、①1970年~2000年②2010年まで③2016年までと時代を区切ってその時々の免疫学とそこから生まれた薬剤の歴史を教えてくれます。3冊とも、とにかく文章が巧み。著者は岸本忠三先生という阪大の総長まで務めた免疫学の大家ともう一人・中嶋彰さんというサイエンスライターのコンビ。“知識の岸本と文章の中嶋”、このコンビがいい味を出していると思います。古書店などでも入手しやすいのでぜひ手に取ってみてください。

まずは基礎編。免疫学の用語や略語を習得!

まずは①の「現代免疫物語 花粉症や移植が教える生命の不思議」。花粉症からスタートして、結核・T細胞・移植・胸腺の役割・抗体・サイトカイン・インターロイキン・TNFと続きます。といっても教科書のように無機的な科学的解説が並ぶわけではありません。岸本先生の研究人生の中で出会った研究者のエピソードやターニングポイントとなった発見物語が満載です。読んでいるうちに免疫学の難しい用語や略語が自然に身につくんですよ。

 

新型コロナウイルスにも免疫学

 そして②「新現代免疫物語『抗体医薬』と『自然免疫』の驚異」、こちらはウイルス感染症に対するワクチンの話で始まりますから、まさに新型コロナウイルスの勉強にもなります。そこからワクチンをキーワードに種痘のエドワード・ジェンナーからロベルト・コッホルイ・パスツールと偉人たちの業績をたどりながら感染症と免疫の歴史物語を味わいましょう。②だけでも十分楽しめます。さらには関節リウマチの治療薬としてのアクテムラ・レミケードの開発物語でいよいよ抗体医薬が登場です。これら前半は「獲得免疫」の話ですが、後半に「自然免疫」の話も。この二つをきちんと分けて解説してくれる本は親切ですよ。BCG接種している国では新型コロナウイルス感染症重篤度が低いという話題がまさにこのBCGによる自然免疫のこと。それが10年前の本で触れられていることに驚きました。

 

オプジーボで締めくくり

最後に③「 現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病」。ビヨンドですよ。いよいよ抗体医薬でがん治療の時代。バイオテクノロジーの発達はリンパ球の細分類を可能にし、さまざまなリンパ球の働きやそれを実現する分子機構を明らかにしました。21世紀になって一気にすすんだ分野です。同じように、「がん」の分子病理学も急速に進歩しました。EGFRやALKのようながん細胞表面のレセプタータンパクの遺伝子異常が明らかになり、そこを攻撃する抗体医薬の分子標的抗がん剤が開発されました。さらに「リンパ球によるがん認識」と「分子標的」という二つの最先端を組み合わせたものがオプジーボニボルマブ)です。本書はリンパ球研究の黎明期からオプジーボまで、①②と同様に多くの研究者の人生遍歴をたどりながらそのすべてがまるで小説のように繋がっていくという素敵な構成で見事に三部作の締めくくりになっています。

 

まとめ

免疫学って特殊な用語や略語が多くて頭に入らない・・・私もそう思っていました。このシリーズはそういう人にこそすすめたい。読み終わったら、あなたもきっと誰かにすすめずにはいられなくなるでしょう。まずは新刊で手に入りやすい③から読んでみましょう。
さて次回は「こころの薬」をテーマに、21世紀になって大きな変化に見舞われた精神医療の世界を覗いてみたいと思っています。あ、そうそう、前回紹介した「アンサングシンデレラ」のテレビドラマ 新型コロナウイルスのために延期になってしまいました。残念ですが、stay home(おうちで過ごそう)、たっぷりの時間に読書を楽しみましょう。
(ドクター・ホンタナ)