El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(70)アビガンはここにきく

――アビガンはここにきく――

 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしております、査定歴22年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「薬はなぜ効くのか」。例えばタミフルはなぜインフルエンザに効くのか、オプジーボはなぜ肺がんに効くのか?

 ぼんやりとした理屈は聞いたことある人も多いと思います「タミフルはインフルエンザウイルスが増えて細胞から出ていくときに必要な酵素ノイラミニダーゼを阻害する」であったり「オプジーボはがん細胞が免疫細胞に敵じゃないというシグナルを伝えるPD-1レセプターを阻害する」というレベルの説明はネットで検索すればたちどころに知ることができます。では、その「阻害する」という薬の働きは実際どうやって起こるの?という一歩深い世界まで連れていってくれるのが本書「分子レベルで見た 薬の働き」。

 分子レベルというと亀の甲(ベンゼン環みたいな)だとか化学式が出てきてとてもとても読む気になれない、というイメージを持つ人も多いと思います。確かにベンゼン環や化学式も出てくるのですが、この本の最大のポイントは分子レベルの立体構造グラフィックスがふんだんに取り入れられていること。化学式は流し読みしても立体構造グラフィックスを見れば「薬の分子がこんなピンポイントで生体分子に作用しているのか」とすっきりわかる(ような気がして)、とても楽しいです。文末に紹介するウェブサイトをぜひ参照ください。

 このような分子のグラフィカル表示を可能にしているのがさまざまな分子の立体構造を座標数値で提供している「構造バイオインフォマティクス研究共同体(RCSB)」が運営するProtein Data Bank(http://www.rcsb.org)であり、さらにその座標数値から立体構造図をPC上に3Dで表示できるソフトウェアです。本書はコマーシャルベースのソフトをつかっているようですが無償ソフトウェアも提供されています。

 本書では抗菌薬・抗がん剤・抗ウイルス薬・生活習慣病薬・免疫のコントロール精神疾患薬に分けて全部で50以上の薬剤分子が生体内で働く様子を見せてくれます。逆にこうした形態解析がコンピュータ上での創薬にもつながっていることもよくわかります。アンダーライティングの現場では、薬は名前と効能と処方のしかたでしか捉えていないことがほとんどだと思います。本書で薬のミクロの作用点を目の当たりにすれば、一歩踏み込んだ世界がひろがります。

 本書の出版社である講談社のウェブサイトに著者の平山氏がいくつか記事を書いています(下記)。話題の新型コロナウイルス薬アビガンを例に、まさに分子レベルで見た薬の働きがグラフィカルに描かれていますので必見です(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2020年5月)。

おすすめのウェブサイト

・期待の「アビガン」、シミュレーションが予測する「効果と副作用」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72229
・「新型コロナウイルス」に効く薬はあるのか?
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70641
・ウイルスの増殖を抑える「プロテアーゼ阻害薬」とはなにか?
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70319