El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

岩波新書 シリーズ日本史 全25巻 サマリー(下)

⑪戦国乱世から太平の世へ〈シリーズ 日本近世史 1〉 藤井 讓治 2015/01/21

家康・秀忠・家光と、政治力がありそこそこ長命な三代が続いたことが徳川300年の礎となったことはわかった。中でも生まれながらの将軍で苦労知らずと思われる家光がビシバシ改易したり制度を固めていくところがすごい。ときどき「うつ」になったりするのもわかるような。しかしその手腕の源泉がよく見えない。生まれながらの政治的天才?あるいは参謀あり?林羅山春日局?通説ではそこはどうなっているの?なんでこんなにすごいの?と思ったのにそこは書かれていなかった。そこが知りたい。

 

⑫村 百姓たちの近世〈シリーズ 日本近世史 2〉水本 邦彦 2015/02/21

統治体系が整備されて農村に余裕が生まれた。

高度成長期の人口移動期まで続く日本の農村の発生過程がよくわかる。環境によって多様ではあるものの、完全に幕藩体制の中に組み込まれたという感じはある。島国だけにゾミア的無名者になるのは例外的なのだろう。一方で高度成長期に税金捕捉率で9・6・4などといわれたことを考えると、実際の収穫(収入)のうち半分くらいはさまざまに年貢の抜け道があったというか、抜け道をおりこんだ年貢率だったのだろう。

「はじめに」と「おわりに」に幕末期の来日スウェーデン人ツュンベリーの言葉が引用されている。「おわりに」のほうがこの一冊のまとめともいえるだろう。「日本の農業に十分な余裕があるのは、たった一人の主人、すなわち藩主に仕えるだけでよいからである。(スウェーデンのように)国の役人、徴税官、地方執政官、警察等々という何名もの人間によって支配されることはない。(中略)農民は、自分の土地の耕作に全力を投入し、全時間をかけることができ、妻子はそれを手伝う。その結果、この国の人口密度は非常に高く、人口は豊かで、そして夥しい数の国民に難なく食料を供給しているのである。」外部者の眼は時に明晰である。

 

天下泰平の時代〈シリーズ 日本近世史 3〉高埜 利彦 2015/03/21

戦後~平成よりも永い平和の100年。5代綱吉、8代吉宗という英君を中心として柳沢・萩原・間部・田沼ら側用人的俊才が固めて100年の平和。島原の乱から幕末までを範囲にいれるとなんと200年以上の不戦期間、これは合衆国の建国から現在までの期間と同じだと思うとすごいこと。この本の終盤では土地開発や農作技術の進歩で食料収穫が増えて人口が増え、都市への人口流入と格差の増大と問題点は出てきているものの、外圧がなかったらもっともっと続いていたのではないか。なぜ永い永い平和が続いたのか、何がすぐれていたのか、そういう観点でのまとめがあってもよかったのでは。

 

⑭都市――江戸に生きる〈シリーズ 日本近世史 4〉吉田 伸之 2015/04/22

江戸=貧困ビジネス都市?過剰な人口を背景に、賃労働者・遊女・非人などが都市に流入し、彼ら・彼女らの労働力搾取で利益を得る株仲間・札差・遊郭経営者が利権集団となっていく。幕府はこれら利権集団から冥加金を吸い上げる。こうして江戸には江戸のビジネスモデルがあり、それは連綿と現在までそれも規模を拡大して続いているような。おぬしも悪よのう・・・

 

 

⑮幕末から維新へ〈シリーズ 日本近世史 5〉 藤田 覚 2015/05/21

新書こうして幕末が準備された。岩波新書の日本史シリーズでは近代史全10巻のうち最初の巻が「幕末・維新」なので本書とかぶっている。本書はどちらかというと江戸後期(18世紀後半から19世紀前半)がメイン。

徳川家斉(いえなり)の50年という長い長い将軍在位。一方朝廷でも光格天皇仁孝天皇がほぼ同時期。長期政権による政治停滞の中で「日本は天皇の国」という皇国観念がじわりじわりと醸成されていく様は興味深い。

それにシンクロするようにロシア・イギリス・アメリカの船が日本にアプローチしてきたことで一気に幕末へ。これらの国々の動きの原因のひとつがナポレオン戦争の結果だったということもおもしろい。日本は、開国後の生糸や綿や銀の輸出入であっという間に国際経済に組み込まれる。まさに人間の欲が歴史を転回させるエネルギーになるということか。

 

⑯幕末・維新―シリーズ日本近現代史〈1〉 (岩波新書) 井上 勝生 2006/11/21

日本史もいろいろ新しいことがわかってきて、過去の通説が否定されるなんてことが頻繁におこっているので、一度、最近の研究者が書いた日本史を通しで読みたい・・ということで岩波新書のこのシリーズに取り組むことに。とはいえ、この近現代史は全10巻の最後が2010年の刊行であり東日本大震災はまだ起こっていない。そう考えると、時の流れの容赦なさを感じる。

本書はペリーから西南戦争あたりまで。西南戦争の経験で国民軍としての日本軍ができあがっていったことなど、高校の教科書では知りえないネタがたくさんある。幕末は本当にいろいろな対立軸の中での方針転換のポイントがあるが、そこでの侍の会議を仕切るテクニックはすごい。

 

⑰民権と憲法―シリーズ日本近現代史〈2〉 牧原 憲夫 2006/12/20

てんこ盛りの25年間最後は「万歳!」。平成になって30年、どうも代わり映えしないような気がしていたが・・・明治維新からの25-30年(本書では西南戦争から日清戦争までの20年ほど)の激動を考えると、本当に平成ってヘーセーなりにおだやかだったんだな、と感じる。まあ、この頃、明治の前半に決めたあのことこのことが太平洋戦争につながっていくのだけれど、そこまで見通して何かを変えれたわけでもなかろう。

この時期に、はじめて大衆のあいだで「天皇陛下万歳」という言葉で臣民国家ができてきたというのも、同じ文脈。それ以外に、まとまれる何かはなかった。そして、日清日露とすすんでいく。

 

⑱日清・日露戦争―シリーズ日本近現代史〈3〉 (岩波新書) 原田 敬一 2007/02/20

歴史の曲がり角である方向が選ばれるのはかなり偶然・・。1890-1910。ほぼ100年前の日本の20年間。藩閥政治ー元老政治ー元勲政治とすすんできて政党政治へとうまく進化できず軍人政治になっていくのか?本巻だけでは読み取れないが。

予想外の戦争の勝利で誤った万能感があったんだろうな、政府にも軍部にも大衆にも。琉球領有ー日清戦争ー台湾征服ー日露戦争韓国併合琉球長男・台湾次男・朝鮮三男という上から目線での大日本帝国の完成。

以外にスムーズにすすんでいくのは軍人養成(軍)・帝国大学(政治・産業)・中学(一般人)と教育にたいする目配りがきいているからだろう。結局国力は人間力・・と思いつつ、ここから1945年にどう向かっていくのか。先を急ぐ。

⑲大正デモクラシー―シリーズ日本近現代史〈4〉 成田 龍一 2007/04/20

大正デモクラシーゆえに・・目先の利得のための妥協のもたらす悲劇。最後のパラグラフ「成果を保持しえず、『大正デモクラシーにもかかわらず』という局面と、運動の論理が状況のなかで、統合と妥協へと移行してしまう『大正デモクラシーゆえに』という双方の要素を持ちながら、1930年代には戦時動員の時代が始まる。」でぴったりオチがついている。その前のパラグラフにある市川房枝氏らの東京婦人市政浄化連盟が自己実現のために体制に協力し政党基盤を崩すことになったことなど、目先の利得のための妥協のもたらす悲劇。

それにしても、藩閥・元勲政治そのものも政党政治っぽく衣替えしてしまい対立軸が不透明に・・最近よくみる浮草のような日本政治はここにもあったのか。「戦前日本のポピュリズム - 日米戦争への道 」(筒井 清忠著 中公新書)を読んだあとで本書を読んだが、大正デモクラシーが結局10年そこらでポピュリズムで戦争翼賛へと変質していくことを知っているだけに、「何なんだ、この国は!」それにしてもポイントポイントで首相級の政治家がこれほど簡単に暗殺されるのはなぜ?護衛はつかないのか?

 

⑳満州事変から日中戦争へ―シリーズ日本近現代史〈5〉加藤 陽子 2007/06/20

戦間期ドイツの復興は中国のおかげだったとは・・・日清日露戦争の結果、台湾、朝鮮、満州と植民地にしたり権益を手に入れたりしたわけだが、そうした帝国主義的ふるまいが許された時代は終わろうとしていた。第一次大戦後の民族自決の動きの中で、帝国主義的ふるまいと民族自決が混沌と衝突、共産主義もあり、常に変化し続ける世界のルール。一方で、戦勝により獲得したものに固執し、変化を理解しようとせず、蒋介石の予想通り世界戦争へ突っ込んでいく日本。そういった構造がきわめて丁寧に書かれている。

ドイツの中国軍事顧問団の存在の大きさもしった。第二次大戦直前のドイツの復興は蒋介石に大量の武器を資源とバーターで買わせたということか。著者のレトリックが煩瑣でこのシリーズの他の巻に比べて読みづらいが、難しい時代を多面的に叙述している。

 

㉑アジア・太平洋戦争―シリーズ日本近現代史〈6〉 吉田 裕 2007/08/21

瀬戸際外交・・・の末の破滅 よその国の瀬戸際外交笑えない。戦争するぞ、するぞ・・という脅しで有利にものごとをはこぼうとする「瀬戸際外交」、エスカレートしていき対外的にも、国内的にも引っ込みがつかなくなり・・・と、ここまで、ちょっと前の北朝鮮の話のようだけど、これが太平洋戦争につっこんでいく日本のことなんだから、まあ本当に情けない話。この国では「どこかで偉い誰かがうまいことやってくれる」とは絶対にあてにしてはいけない。それは教訓。

アメリカが戦争のおかげで大恐慌以来の経済停滞を脱出したのもまた事実。自分の庭でないところでの戦争は儲かる。戦争末期の米ソ対立で日本の戦争責任がうやむやになった、ここから永続敗戦論につながる。

幕末・維新からここまで6冊。結局もとのモクアミに。陛下もそれを予言していたとの記載も感慨深い。

 

占領と改革―シリーズ日本近現代史〈7〉雨宮 昭一 2008/01/22

戦争が日本を平等社会にしてくれた・・・本当か?1945年の敗戦から55年体制の始まるまでの10年間。ここまでの7巻の中で、自分の中の歴史認識との違いがもっとも大きいのがこの10年間だった。学校では年度末で尻切れトンボの授業でお茶を濁される部分。

まず、目からうろこは、戦時体制以前はかなり不平等な社会だったということ。貧富の差が激しかった。その不平等社会が是正されたのは戦時体制のおかげということ。総力戦体制によって社会関係の平等化、近代化、現代化が進行した・・・と。わたしにはそれまでの不平等社会への認識が足りなかった・・・というか本当か?結果論?

この自由派(資本家層)と平等派(軍部→社会主義共産主義)のせめぎあいは戦後も続く・・・と、ちょっと戦時総力戦体制を持ち上げすぎのような。

もうひとつは、「無条件降伏サクセスストーリー」。戦争の後に講和ではなく無条件降伏させて、勝者がまるで育ての親のように敗者の新国家建設を指導する、それが一見、すごくうまく行ったように見えたのが日本の占領。本当は日本人がストーリーにのっかるという前提があってこそのサクセスであったのに、アメリカは、このあと、ベトナムや中東で違う前提条件のなかで「無条件降伏サクセスストーリー」をもとめては失敗する。

「無条件降伏サクセスストーリー」は日本国内的には、独立した国としての戦争の精算をさせない結果になってしまった。このため永続敗戦論みたいな話になっている。

 

㉓高度成長―シリーズ日本近現代史〈8〉 武田 晴人 2008/04/22

今に近づけばこそのむずかしさ?当たり障りのないところへ。やっとここで自分自身の時代に・・・とはいえ、1957年生まれの私にとっては社会人になる直前までの時代。個人的には小1のときオリンピック、中1のとき万博だった自分はまさに高度成長を子供ながらに享受できた世代とおもっている。ここまでくるとそれまでのようには落ち着いて概括的に読むことができない自分を感じる。同時代を理性的に理解することのむずかしさを感じる。子供心には、大人びた政治家たちが派閥抗争を繰り広げながらも国を大きくしていったと認識していた。しかし、現在から見れば、その場その場の政治の駆け引きはいかにも子供っぽいものだなぁ・・・そしてその積み重ねがバブルに。いつの世もこんなものだ。

 

ポスト戦後社会―シリーズ日本近現代史〈9〉 吉見 俊哉 2009/01/20

日本史はここで終わり・・・ここから先は世界史の一部になっていくのかな。近現代史シリーズの最終巻、2008年に発行されているので2001年の9・11あたりまでの出来事。3・11はまだ起こっていない。著者がわたしと同じ1957年生であり、かなり同時代意識をもって読めた。小1で東京オリンピック、中1で大阪万博、社会人1年目にディズニーランド開業と、高度成長時代の最後尾に滑り込んだ世代。

高度経済成長があまりにも「イイ」体験だったゆえに、そこから離れられなくなったのか、その後バブルの崩壊まで(いや・・いまでさえ?)(無意識のうちに)経済成長前提の経済政策になっていることがよくわかる。

また、次第に世界全体が政治から経済で動くようになり変化のスピードが増して、計画時点での前提が数年で壊れていくのに計画を修正できないで泥沼に・・ということを繰り返してきたということも。

一方で、混迷する政治と経済に翻弄される人々の暮らしぶりを、著者は社会学者らしく豊かさ・家族・地域生活・環境破壊などきっちりと記録していく。

1990年ころからは、冷戦の終結・グローバル経済・ネット社会という具合に世界自体が大変動していくので日本の近現代史としてまとめることはどだい無理になってきました。このあとの歴史はすでに単独の国の歴史ではありえないのかも。

 

日本の近現代史をどう見るか〈シリーズ 日本近現代史 10〉 2010/02/20
シリーズ9冊の後に読むと理解が深まる。以下、各章一行コメント。先に9冊読んでいないとしっくりこないのでは。

明治維新 尊皇攘夷から尊王開国へのコペ転はまさにマジック
②王政復古 なんと仏教伝来以前への復古、ゆえの廃仏毀釈
③日清日露 戦争が国民意識を作った
大正デモクラシー 暗殺だらけの終幕
日中戦争 米の中立法による経済制裁で瀬戸際に 今も世界中で同じことが
⑥太平洋戦争 総力戦体制でしかなしえなかった格差是正
⑦占領 50年代の協同主義的社会を結局資本が解体する
⑧高度成長 生産性向上→余剰労働力→経済成長による吸収 というイタチごっこ
⑨ポスト戦後 民主党政権への希望を語るこの本の刊行後に、3・11、第二次長期安倍内閣・・・とはいかに