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人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

夏の災厄

Stay Homeにウイルス・パニック小説を

夏の災厄 (角川文庫)

夏の災厄 (角川文庫)

  • 作者:篠田 節子
  • 発売日: 2015/02/25
  • メディア: 文庫
 

場所の設定は西多摩のあたり、夜間救急診療所や保健所が最初の舞台になります。医療者と保健所のお役所仕事のせめぎあいなど冒頭からCOVID-19の日本を思わせる展開。日本脳炎をより悪性化したウイルス感染症がじわじわと拡大していきます。少しネタバレですがこの新らしい脳炎ウイルスはじつは東南アジアでいまだ流行中の日本脳炎のために日本で開発していたバイオ・ワクチン(分子生物学的手法でウイルス抗原タンパクを無害のウイルスに組み込んで接種するもの)の失敗作が逆に高い病原性を持ってしまったものだったんです。これってCOVID-19武漢研究所説と同じですよね。

感染の拡大とともに街がすさんでいく様子や、昔のニュータウンが時間経過の中でさまざまな機能不全を起こしていくことなどをからめながら、主人公の保健所員がウイルスの出所を解明するために診療所のナースと大活躍。

反ワクチン運動やワクチンの認可にかかわる厚労省との折衝も後半の重要な要素となります。COVID-19でもよく聞くワクチンの実用化まで1年以上かかるのは、そういうお役所的な事情があるのか・・とわかります。

オチまで書いてしまってはだめなので、以下Kindleのメモ機能で本書から抜書きした「感染症あるある」をいくつか紹介しましょう。
  ・この手のごまかしが統計や検査結果報告書ではまかり通る。
  ・情報の集積のない新しい事態に、機動的に対処する術を官庁は持っていない。
  ・病気で死ぬのは市民の責任だが、副反応で死んだら行政の責任なんだ。
  ・食材のケータリングサービスなどの宅配業が盛んになった。
作者の篠田さんは「女たちのジハード」など今を生きる女性像を多くの作品で描いていますが、この作品でも実は行動力抜群の肝っ玉ナースのほうが真の主人公なのかもしれませんね。

Stay HomeでKindle読書にうってつけ。