El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(65)現代の錬金術MMT

――現代の錬金術MMT――

  気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、査定歴22年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは金融・経済の分野から「MMT」。アンダーライティングには直接は関係ありませんが保険業界にも関わる経済ネタとして押さえておきたいテーマです。知っていますかMMT。

 MMT=Modern Monetary Theory 現代貨幣理論という新しい経済理論。巷を騒がせています。去年あたりはまだなんとなく「あやしげな話」というレベルだったのでブックガイドで取り上げることは躊躇していました。ところが今年になってNHKの経済番組(BS1「欲望の資本主義2020~日本・不確実性への挑戦~」)でMMT賛成派と反対派が平等に意見を言うなど、なんだかいつの間にか市民権を得てきたようにも見えます。

 MMTが市民権を得てきたからなのか、少し前まではMMT理論の本と言えば経済学の教科書的で分厚くちょっと素人にはむずかしいという本しかなかったのですが、年末あたりから一般人向けの入門書が出版されるようになりました。そんな中から手に取りやすい新書を紹介します。

 自分の家の家計を考える場合、収入があって支出があるわけで収入に見合った支出をするというのはあたりまえです。これは企業でも同じこと。収入のほうが多ければ黒字となり逆ならば赤字で困ってしまいます。現在の主流派経済学(MMTを認めない側)では、国家財政も家計と同じように、収入(主に税収)と支出(国家予算)のバランスが大事と考えています。日本はバランスが壊れて赤字続きですが、その赤字は国債を発行して借金の形で帳尻あわせているのはご存じの通り。

 このように主流派経済学では、家計と国家財政を同じように収入と支出のバランスで考えてきました。ところがMMTでは政府の財政は家計や企業のそれとはまったく別物と主張します。え、じゃなんで税収不足で消費税を上げたの?財政赤字のままでは国家破綻になるんじゃないの?・・・それが、破綻しないんですMMTでは。 なぜなら、通貨を発行するのは政府自身だから政府が自らの通貨について支払い不能になることはありえない(お金を印刷すればいいだけの話)。・・・え、そんなこと言って大丈夫?・・・

 通貨が金(きん)にリンクしていた兌換紙幣の時代や対外通貨との関係が固定相場であった時代には確かに金(きん)の量や固定交換率によってタガがかけられていました。そのため世界経済の中で日本だけが通貨を勝手に印刷して増やすことはできませんでした。しかし兌換紙幣でもなくなり変動相場制となった今、「一つの国の中で収入と支出のバランスを保つ必要などない。」「むしろ適度なインフレが維持できる程度に通貨を増やせばいい。」というのが私が理解できた範囲でのMMTです。

 わたしたちは税という収入があって政府が支出できるという考えに慣れきっているためMMTになにかあやしいものを感じるのですが、MMTでは税の存在理由を「貨幣に対する需要を創造する」こと、あるいは「総需要を減らすこと」だとし、税は「国家の収入」ではなく、「物価を調整するための手段」「累進課税所得税などによる格差是正のための再分配の手段」だというのです。

 政府は財政赤字を気にする必要がないというのは、キツネにつつまれたような話ですが現実的に莫大な財政赤字の累積を抱えている日本がMMTの「実践例」と言われると・・なるほどと思ってみたりもします。

 というわけで、経済学者の中でも議論がわかれるMMTなのでまだわたしにも何が正解かわかりませんしMMT礼賛派が書いたこの本だけではにわかに信じることはできません。一万円札をどんどん印刷して財源にしていくと円安になって石油が買えなくなるんじゃないの?と思うのはシロウト考え?新型コロナウイルス騒ぎの株安に対して日銀の黒田総裁が国債ETFをどんどん買うという話をしていますが・・・これはひょっとして隠れMMTなのか。(2020年3月)