El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(64)コロナウイルス騒ぎの中で

――コロナウイルス騒ぎの中で――

  気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしております、査定歴22年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。これを書いているのは2020年2月19日ですがテレビ番組は新型コロナウイルス肺炎の感染拡大のニュースやワイドショーばかりです。春節あたりからニュースと言えば新型コロナウイルス一色でいわば「感染症パニック」の状態でに近いです。

 さまざまなメディアがさまざまな専門家に語らせ、専門家同士でも意見のばらつきがあったりする上に、シロウトのコメンテーターが言いたいことを言うという展開なので、冷静でいようと思ってもついついセンセーショナルな映像やワードに振り回されてしまいます。新型インフルエンザやSARSの時もパニックはありました。

 そこでパンデミックの専門家、神戸大学感染症内科の岩田健太郎先生が過去の感染症騒ぎ(2014年のエボラ)のときに「感染症パニック」について書いた本書を読んでみました。副題に「リスク・コミュニケーション入門」とあるように、感染症騒ぎの際には専門家や政府・自治体あるいはメディアがリスクをどう伝えるかによって人々の受け止め方は大きく変化します。感染症に限らず、原発問題やワクチン問題など、「リスクの伝え方」が非常に大きな要素になっており、リスク・コミュニケーション学という学問のジャンルができているほどです。本書を一通り読んでテレビニュースを見ると、メディアに登場する多くの感染症の専門家や政治家のリスク・コミュニケーション能力がなかなかよくわかります。

 一方で、この本は情報発信者目線で書かれていますので、情報の受け手のために、副読本としてリスク・コミュニケーション学の専門家が書いた「リスクを伝えるハンドブック」(西澤真理子著 エネルギーフォーラム 1600円税別 2018年10月刊行)もお勧めです。こちらは1テーマ見開き2ページで読みやすくわかりやすい。

 ポイントをいくつか抜き書きしておきます。
「人に伝わりやすいものは単純でわかりやすいもの。」
「相手の視点に合わせて相手の知りたいことを伝える。」
「論理と数字の説明だけでは一般人の腑に落ちない。」
「ハザード(危険の質)とリスク(危険の量)の混乱がメディアバイアスにつながる。」
「受け手側にもメディア情報を読み解く能力が問われる。」
「科学者は論理を説明し、一般の人は安全を聞きに来る。」
「科学では一般的な言葉でも生活者の言葉ではないものは思わぬところで誤解を生む。」
「相手は自分と同じように考えたり感じたりはしないという地点に立ち返る。」

 岩田健太郎先生、今回のコロナウイルス騒ぎをきっかけにYouTuberデビューしたようです。YouTubeで「岩田塾」と検索してみてください。今日になってクルーズ船の内情を批判する動画もアップされています。この動画、私の正直な感想としては正しいリスク・コミュニケーションなのかは疑問を感じますが、それもまた岩田先生らしいのかもしれませんね。

 いつまで続くかわからない新型コロナウィルス感染ですが、リスク・コミュニケーションのスキルについて学びの機会でもあります。次回までに感染が沈静化していることを願いつつ、科学者の言葉でいう「標準予防策」(=手洗い・うがい)を励行したいと思います。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2020年2月)