El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(57)嘘を暴いた先に、何があるのか

――嘘を暴いた先に、何があるのか――

仮病の見抜きかた

仮病の見抜きかた

 

 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしております、査定歴22年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「診断学」特に「問診」です。生命保険の引受査定では「告知内容」ということになりますね。告知聴取・問診の難しさって確かにあります。被保険者・患者が言っていること(告知内容や主訴)がそのまま正しく病態を反映しているわけではない。意図的にウソをついている場合もあるでしょうが、多くの場合は、語り手と聞き手のあいだのコミュニケーションがうまくいかない場合が多いのではないでしょうか。

 患者と医師、あるいは被保険者とアンダーライターでは医学の知識の差があるため、言いたいことと尋ねたいことがずれてします。医師側はそうしたあいまいな訴えの中に糸口を見つけ、知識や洞察力を駆使して隠された真の病態に近づきます。そこには、医学の知識だけでなく感性など総合的な人間力が必要です。

 本書の著者、國松先生は南多摩病院 総合内科・膠原病内科に勤務、不明熱をはじめとしたいわゆる「原因のわからない病気の診断と治療」を専門に。最近では本書の他にも「ニッチなディジーズ」「『これって自己炎症性疾患?』と思ったら」などを出版。まさにわかりにくい病気の専門家です。そんな中から最も医師以外にも読みやすそうな本書を選んでみました。題して「仮病の見抜きかた」

 小説仕立てで10人の患者のエピソードが取り上げられています。それぞれのエピソードは、「患者との出会いとやりとり」→「医学的な分析」→「後日談」で構成されており各20ページ程度なのでかなり軽快に読むことができます。

 エピソードをまとめると(ややネタばれになりますが・・)
① お腹の激痛とCRPの上昇発作、驚くほど短期間でよくなる→家族性地中海熱
② 手足がしびれてうごかない医療一家の娘、困惑感がないのが不自然→転換性障害
③ 頻脈と高血圧発作→パニック発作による偽性褐色細胞腫
④ 右季肋部痛でいかにも胆石風女性→前皮神経絞扼症候群
⑤ しょっちゅう頻脈発作で救急受診する老女→パニック障害
⑥ 低カリウム発作を繰り返す自由人→偽性アルドステロン症
⑦ 高熱発作を繰り返す女子高生→詐熱か心因性発熱か・・虚偽性障害
⑧ 回転性めまいと顔面の感覚障害のSE→ワレンベルグ症候群?
⑨ 体を鍛えすぎるクレーマー女性→神経性食思不振症・偽性バーター症候群
⑩ けいれん発作のダウン症女性→心因性てんかん発作
・・というラインアップ。文章が軽妙なので、引き込まれますよ。最終的には診断がついたり、はずれたり、そもそも診断するってなんだろう・・という話になったり、モヤモヤした結論もおもしろい。結局、人間が相手ということは、診断プロセスを画一化することなんてできないんだなということがよくわかります。

 最近の医療の現場の空気を味わいながら、知的な医学読み物を堪能しました。最初のエピソードに出てくる「家族性地中海熱」は最近よく見かける病名ですね。家族性もはっきりせず地中海でもない日本でもそれなりの数の患者がいるようです。知らなければ診断できませんし、まして保険のアンダーライティングでも。やはりふだんの勉強が大事ですね。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2019年11月)