El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(53)スーパードクターのマネジメント術

――スーパードクターのマネジメント術――

 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしております、査定歴22年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のは千葉西総合病院の話から冠動脈疾患を考えます。本書のサブタイトルにも「いかにして心カテーテル治療数日本一に躍進したか?」とあるように、松戸にあるこの病院、心カテーテルによる治療数がここ数年ずっと日本一なんです。

 著者の三角(みすみ)先生は心カテーテル領域のいわゆるスーパードクター。年齢は私と同じです。大阪生まれで東京医科歯科大を卒業しアメリカで心カテーテル修行、その道のプロとして名をはせました。一時期ハワイで開業したりもしていたようですが50歳になって強く請われて千葉西総合病院へ。そして、それまでのどんよりとした病院体制を持ち前のパワーで大改革し10年で心カテーテル治療数日本一の病院を作り上げました。特に冠動脈の内側にこびりついて石のように固くなったコレステロールの結晶をロータブレーターという道具でトンネルを掘るように削りそこにステント(支えとなるチューブ)を入れるという手技では右に出るものなしということです。

 本書はまず三角先生が千葉西総合病院に来てからの改革の過程が語られます。けっこうアクが強く、若くなければついていけないかなりハードな感じですね。早朝から夜中まで心カテーテルをやるだけでなく、週末には講演会や患者教育など集客(集患者)努力にも熱心です。講演会では自分の携帯番号が書かれたグッズを配って「胸痛発作があったらいつでも連絡可」というのもすごい。

 続いて、症例を紹介しながら検査法や手技の説明です。その中では「心臓CT」の進歩には驚きました。ぜひ画像を検索してみてください。一昔前の心カテによる造影と遜色ありません。「平気だった運動でいつの間にか胸苦しいようになったら心臓CTを受けるべき」ということと「悪玉(LDL)コレステロールは薬のんででも正常範囲にしておくべき」という教訓は肝に銘じました・・プロの話だけに説得力あります。そういう意味ではこの本、一般人のための冠動脈疾患予防の指南書とも言えます。

 後半は医師や看護師、コーディネーターなどのスタッフのインタビュー。多くの人が三角先生のバイタリティを賞賛していますが、同時に「大きなこども」(もちろん親しみをこめて)と表現しているのが印象的でした。最後に、その「大きなこども」の子供時代からの回想記もついてます。

 年間3000例という膨大な治療数について「質の低下の心配はないのか?」という問いかけに対する、三角先生の「医療では量が質を作る」という言葉に感心しました。アンダーライティングも量をこなせるようになって初めて質が作り上げられます。量の中にこそ質を高める要素が入っているのは同じだなと感じました。

 「スーパードクターの自慢本?」思いながら読み始めましたが、すっかり感服してしまいました。関東に住んでいたら「胸が痛くなったら松戸の千葉西総合病院へ!」でしょうか。人気のためかなり混んでいるようですが本書によれば、決して断ったり後回しにはしないそうですよ。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2019年9月)