El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(51)「まっとう」とは結局「自分で考える」

——「まっとう」とは結局「自分で考える」——

  気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしております、査定歴22年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「がん検診」。保険の加入時に提出される健診書にもいわゆる「がん検診」項目がたくさん含まれています。腫瘍マーカーに異常があったりすると扱いに困りますよね。

 がん検診の本で著者が「近藤先生」ということで検診否定派の「近藤 誠」先生の本?と勘違いしそうになりましたが、この本の著者である近藤慎太郎先生は消化器内視鏡の専門家。本書のマンガ部分もご自分で書いているようです(ちょっとヘタウマ系ですが)。肺がんに始まり、胃がん前立腺がん・・・子宮頸がんと主ながんを12章にわたって網羅、それぞれ、文章がメインで7割マンガが3割、そしてまとめと参考文献という構成でなかなかよく考えられています。マンガが数ページずつ入ることで読みやすさ理解しやすさがアップします。最初は「マンガ?」と思っていましたが、この構成は一般向けの本ではアリだと思います。

 それぞれのがんについて、原因・リスク・検査法とトピック的なテーマが盛り込まれていて、それぞれに新鮮な気づきがあります。例えば肺がんでは、「タバコのリスクについての文章」「ヘビースモーカーのマンガ」「肺がんの早期発見についての文章」「肺がんのCT検診についてのマンガ」「肺がん検診についてのまとめの文章」「禁煙マンガ」「禁煙と電子タバコについての文章」「締めのマンガ」「まとめ」「参考文献」・・と文章とマンガを交互に並べて30ページ。結論として、CT検診は、レントゲン検診より肺がんの死亡率を20%下げるが、「過剰診断・被爆のリスクに注意」となり「少なくとも50歳未満には推奨できない(CT検診精度管理ガイドラインを引用)」と、きっぱりと書かれています。

 著者は内視鏡医ということもあり胃がん検診ではバリウム検査をほぼ全否定。また、ピロリ菌感染者が減ったことで逆流性食道炎、ひいては食道がんが増えているという話も新しい(これは告知などでも実際増えていますね)。前立腺がんではPSA検査の功罪、乳がん検診の超音波併用、子宮頸がんのHPVワクチン問題などトピック的な話題を盛り込みながらすべてのがん検診の有効性とピットフォール(落とし穴)がわかるようになっています。

 特に興味深いのは11章「PET検査、血液検査によるがん検診」、いわば最先端のがん検診方法ですが、PET検診でも半分のがんは見逃されている(検出できなかった)らしいです。また血液によるがん検診についても、特異度と感度が問題がきちんと取り上げられ(マンガにも)ており、商業主義に走って特異度をないがしろにした検査法を開発する風潮に警鐘を鳴らします。

 そして最後の第12章が「がん検診懐疑派への反論」となります。著者自身いくつかの検診方法に懐疑的な評価を下していますが、最終的には、年齢・症状・家族歴などのがん罹患リスク、検査のベネフィット(利益)とリスクをそれぞれのがんごとに、十分な事前知識を得て、自分で(受けるか受けないか)判断しよう、というまあ妥当なところに落ち着きます。結局「まっとう」は「それぞれ自己責任で考えろ」ということでしょうか。たくさんの検査をやればやるほどいいというものではない、わかってはいても、一般人にはなかなか理解させるのが難しい・・・のではありますが。

 ちなみに私(60代男性)の個人的ながん検診方針は、4年ごとに胃カメラと大腸ファイバー、それに肺から上腹部までのCTとPSA検査(これは正常値4以下ですが私は10を超えなければ生検は受けません)で必要十分だと思っています(あくまでも個人の意見です)。無駄な検査や過剰診断をできるだけ減らしながらも早期発見を見逃さないバランス!がん検診も漫然と言われるままに受けていてはいけない、そんな時代を感じる1冊です。
(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2019年8月)