El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(45)ぽっちゃり父さん長生き説!

 ——ぽっちゃり父さん長生き説!——

 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしてます、査定歴22年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。ゴールデンウイークで10連休という人も多いのでしょうか。私は連休中に誕生日を迎えまたひとつ歳をとりました。改元もあって、なんと天皇陛下よりも年上に・・・。というわけで今回のテーマは「男の老化」。この歳になるといつまでも元気な妻を見て老化の男女差について考えさせられることが多いです。

    みなさん、筋トレしてますか?「筋肉はうらぎらない!」ということで私もスクワットだけは欠かさずやってますがそれでも筋力低下は日々実感します。ところがこの本を読んで少し安心しました。筋肉が落ち胴回りが増す傾向は病気ではなく男の老化としてごく自然な成り行きであり、それがかえって長寿をもたらす変化だと言うのです。

    男は女に比べて、筋肉量が多いため基礎代謝が大きくエネルギーを多く消費します。しかしこんな不経済な筋肉が発達しているのは狩猟・戦闘そして何よりも女性の獲得をめぐる競争に勝つという進化上の利点があったからです。この筋肉量の増加・維持に重要なのが男性ホルモンのテストステロンです。

    中高年になるとテストステロン濃度が下がりそのため筋肉が落ちて脂肪に置き換わっていきます。そうすることで基礎代謝が減少します。さらにそれは脳にも影響して、スリル・スピード・サスペンスを避けるようになり次第に落ち着いた「おじさん」「おじいさん」になっていくというわけです。さらに脂肪組織にはアロマターゼという酵素があり、これがテストステロンを女性ホルモンであるエストラジオールに変換します。つまり男っぽさが失われておばさんっぽい中高年男性になっていくのにはそういったホルモン面での裏付けもあるわけです。こうして増えてくるエストラジオールは免疫機能を高めることがわかっています(女性に自己免疫疾患が多いのはそういう理由もあり)。

    また筋力増強を目的としたテストステロン投与の効果研究では高テストステロン状態は筋肉を増やすものの前立腺がんのリスクだけでなく心筋梗塞など重篤な疾患の発症率を上げ死亡率を高めます。女子短距離の金メダリストであるジョイナーが心筋梗塞で急死したのは男性ホルモンの過剰注射のせいではという疑惑もありました。男性の平均寿命が女性より短いのは人生トータルで見た時のテストステロンの差によるものではないかと考えられています。

    そうすると中高年以降にテストステロンが低下しぽっちゃりになることは寿命的にはプラス。となると筋肉を鍛えて老化にあらがうことは寿命的にはマイナスなのかもしれません。また子育てや孫の世話をするとテストステロン濃度が下がることもわかっています。イクメンは長生きで浮気しない?中年以降の子育て・孫の世話も大事です。

    この本を読んで男にとってのテストステロンと寿命の関係についてよくわかりました。ウエストが気になり始めた男性のみなさんを勇気づけてくれる良書です。しかし、ここからは私の意見ですが、「体格と寿命」を統計的に考える場合は交絡因子があまりにも多いので「ぽっちゃり=長生き」と考えるのは短絡すぎるような気がします。中高年以降の男性でやせてスマートな人には「ヘビースモーカー」「糖尿病の末期」「がん」など、それなりの理由がある場合も多い。つまり「ぽっちゃり」が長生きの原因というよりは、「ぽっちゃり」になれない原因に寿命を損なうものが多い。そう考えてみることも保険医学的には必要でしょうね。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2019年5月)