El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

敗北者たち

帝国という牢獄から出るとそこは地獄だった・・・

 旧式帝国(オスマン・ハプスブルグ・ロシア・ドイツ)の維持困難さ、民族主義の台頭が第一次世界大戦の引き金になり、これらの帝国はみな崩壊した・・そこまでは中学でも習う。崩壊した帝国では様々な民族グループによる激烈な血で血を洗う民族間の殺し合いがいたるところで始まった。さらに、そこにロシアを転覆したボリシェビズムが一枚かむことで、旧勢力と新勢力の争いに共産主義が結合しさらに抗争関係は複雑に。共産主義ユダヤ人という短絡志向でユダヤ人虐殺(ポグロム)はいたるところで起きており、ナチスのジェノサイドの萌芽はすでにあった。

旧帝国は「民族の牢獄」と言われたが、町中殺し屋がいるような時には「牢獄こそが安全地帯」だったわけで、その安全地帯を自分たちで壊したということ。本書はこれまで知らなかった第一次世界大戦直後のヨーロッパのひどい状況を活写してくれる良書。惜しむらくはもう少し地図をつけてほしかった。