El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

「鎌倉幕府と朝廷」〈シリーズ日本中世史 2〉

闘争と移動の時代・・・王権の維持は逆説的にデフォルトに

鎌倉幕府と朝廷〈シリーズ日本中世史 2〉 (岩波新書)
 

 闘争と移動の時代。下は所領の所有をめぐって、上は地位の継承をめぐって、身内での闘争が非常に多い。人口増加の中で未開発地が次第になくなっていったことが背景にあるのだろうが、闘争関係者の名前が相互に似ているので読んでいて誰が誰だかわからなくなるほど。

闘争の果て、承久の乱後にはほとんどが武士の支配下に。この時に東国武士が全国(特に畿内・西国)に移動した。その後の蒙古襲来のときには動員がかかっているし、鎌倉に陳情にいく武士の記録も残っている。この頃も日本中を旅することは多かったのだ。

特に幕府関係者や公家の下向で京都―鎌倉の往来は多かったようで、有名な「十六夜日記」は鎌倉中期に60歳を越えた阿仏尼が亡夫の遺産相続の訴訟で京都から鎌倉へ行く日記なので、盛り込んでほしかった。

北条義時には承久の乱で王朝そのものを打倒する根拠と力があった。しかし、それをやらなかったことで、それ以後も王権は維持されることがデフォルトになった・・のか、などと考えるが、このシリーズは王権のことはなるべくさわらない方針のような気もする。歴史を記述するとはそういう難しさもありますね。確かに。