El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(36) 語りつくしてくれて、ありがとう

 ——語りつくしてくれて、ありがとう——

遅刻してくれて、ありがとう(上) 常識が通じない時代の生き方

遅刻してくれて、ありがとう(上) 常識が通じない時代の生き方

 

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしてます、査定歴21年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。さて年末です。平成も残り1年をきりました。今回は医学を離れて平成の30年間を「世界の視点」で振り返るのに最適な本をレビューしてみました。

  平成は西暦では1989年から2019年。国内的にはいろいろありました、バブル崩壊55年体制崩壊・小選挙区制・阪神淡路・サリン・銀行生保破綻・郵政民営化東日本大震災原発事故・・・。平成の終わりということでついつい国内に目が行きますが、じつはこの30年間は世界史的に見てもまさにターニング・ポイントでした。平成になったまさにその年にベルリンの壁が壊れ・ドイツ再統一・EU発足・湾岸戦争911・・・と続きます。それならば、まずは世界におけるこの30年を振り返りたい。それにぴったりなのが本書です。

  フリードマンと言えば「レクサスとオリーブの木」(2000)で1990年前後のグローバル化の時代を描き、「フラット化する世界」(2008)でインターネットとグローバル化の時代を描いてベストセラーを連発。彼の最新作がこの「遅刻してくれてありがとう」です。サブタイトルは「加速の時代を楽観的に生きる方法」。「フラット化した世界」に引き続く2007年から今までを「加速の時代」ととらえ語り尽くしてくれます。「遅刻してくれてありがとう」というのは、加速の時代にせわしなく生きている中で、相手が遅刻してくれてできたようなポカンとあいた時間こそ立ち止まって考えることができる・・・ことに感謝という意味です。

  2007年はiPhoneが発表された年なんですね。それから10年でスマホは世界を席巻してしまい、印刷術やラジオやテレビに匹敵する人類のレガシーになりました。さらに、フェイス・ブックやインスタにビットコインなどのネット上でのサービスがスマホの世界拡散とあいまってこの10年で世界はすっかり変わってしまいました。いや、完了形ではなく、今もどんどん変わっていっています。日本でもZOZOやメルカリなどIT長者を生み出す企業が続出しています。

  変化の速度が加速したこともまたこの10年の間におこったことです。こうして本を読んでブックレビューを書いている間にもすぐにその本が陳腐化するようなことがおこっています。変化が加速しているために個々人が変化全体を捉えきれなくなっており、それがデジタル・ストレスになっているとも言えます。本書はこうした現象を800ページにわたって網羅。まるで未来から現在をみて書かれた歴史書のようでもあります。

  「レクサスとオリーブの木」「フラット化する世界」「遅刻してくれてありがとう」、この三部作それぞれ10年ずつで合わせてぴったり平成の30年間とシンクロしています。平成時代を世界の動きの中で考えてみるのに、日本にとらわれていないフリードマン三部作はうってつけです。まずは、最新刊の「遅刻してくれてありがとう」から手に取ってみてはいかがでしょう。

  じゃあ日本の内側のことはどうなんだ?という方には「平成の重大事件」が手軽でオススメです。自然災害と落ち着きのない政治に翻弄された平成という時代を、常に最前線にいた(?)猪瀬直樹氏と田原総一朗氏が語りつくします。「朝まで生テレビ」「サンデープロジェクト」ってこんなに政治に影響あたえてきたんだ・・と驚きました。天災の多い日本では、どうせ大災害でガラガラポンになるのだから・・という、なんとなく無責任な「天災史観」があるという話も納得。

  明るいことばかりだったとは言えない「平成」ですが、新年からは前向きなブックガイドにご期待ください。それではみなさん良いお年を。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2018年12月)