El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(35) 相関関係≠因果関係

——相関関係≠因果関係——

 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしております、査定歴21年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「データ分析と因果関係」。

  「ビッグデータ+人間の判断力=真実が明らかに!」と帯に書かれています。光文社新書にはめずらしい(?)地味なタイトル「データ分析の力」ですが、データをどう仕事に活かすかをしっくりわからせてくれる良書です。1年で10刷ですから売れています。データ分析して査定基準を考えるような仕事をしているひとには役に立つ一冊です。

  医療の世界ではここ20年ばかり根拠にもとづいた医療EBM(=Evidence Based Medicine)が声高にいわれてきました。最近ではそれが次第に過剰になって患者不在のガイドライン医療化しているという批判もあります。しかし、政治・経済の分野では、いまだに政界長老や経営陣の「経験や勘や力関係」でものごとが決まることが多いのではないでしょうか。これってまさにEBM以前の医療と同じ状態ですよね、医療は自己改革してきたとも言えます。

  そこで、政策や企業の運営方針もデータをもとに決めていこう、といういわばEvidence Based な考え方が出てくるのも当然です。そのEvidenceを解釈する際に、大きな問題となってくるのが「相関関係を因果関係と勘違いしてしまう」というパターン。例えば、喫煙者には肝機能異常者が多い(=相関関係がある)、よってタバコは肝臓に良くない、というギャグみたいな考え方をする人はまだまだいます(真実は、タバコを吸う人は酒も飲む)。実際の企業の現場では、「去年の夏はテレビCMでアイスの売り上げが伸びたから今年もやろう」という一見正論っぽい話(実は猛暑だっただけとか)が相関関係と因果関係をゴチャゴチャにしており、その違いをきちんと理解できないままの意思決定って世の中に多いんです。

  そこで、相関関係ではなく因果関係を証明するにはどうすればいいのかというのが本書のテーマになります。本書からわかりやすい例をあげますと、オバマ前大統領が選挙戦用のホームページデザインを決定するに際し、何パターンか作ってネットでの訪問者に各パターンをランダムに割り振り、どのパターンがもっとも寄付につながるのかという実証分析の結果を経てデザインを選択したというのが典型的です。これって医療の分野では当たり前のように使われているRCT(=Randomized Controlled Trial:ランダム化比較試験)ですがそれが社会科学でも使われるようになったというわけです。

  しかし医療とちがって実際の社会現象をRCTすることは多くの場合不可能です。そこで登場するのがRCTの代わりとなりえる種々の方法。本書でとりあげているのは「境界線を賢く使うRDデザイン」「階段状の変化を賢く使う集積分析」「複数期間のデータを生かすパネル・データ分析」。

  例えばRDデザインでは、保険会社が血圧の査定基準を開示し、なおかつ告知の血圧値を信用して査定していると、条件体になる血圧値境界の直前の血圧の告知が不自然に増加する・・なんてありそうですよね。そこから美化告知の存在を証明する・・という具合に使えるのかなと感じます。

  それ以外にも、医療と社会科学の中間に位置する保険医学にとっては膝を打つ内容の多い本書、分野としては「計量経済学」らしいのですが、経済学もあなどれません。また、新書とは思えない懇切丁寧さできちんとしていてわかりやすい良書。おすすめです。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2018年12月)