El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(32)多事争論・人口減少!?

——多事争論・人口減少!?—–

人口減少社会の未来学

人口減少社会の未来学

  • 発売日: 2018/04/27
  • メディア: 単行本
 

 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしております、査定歴21年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「人口減少」。

  みなさん、評論家の内田樹(うちだ たつる)先生って知ってますか。語り口が好きな作家の一人で、彼の著した本を長年読んできました。偶然ですが、内田先生、某大学教授を定年退職し終の住処を建てたのですが、それがうちの近所ということでびっくりしました。

  さて、人口減少社会の未来について、いろいろな視点からの知見をまとめた本を編みたいという内田先生の呼びかけに10人の論客がさまざまな視点・立場から人口減少を論じたのが「人口減少社会の未来学」。内田先生をあわせた11人の言っていることはバラバラという印象ですが、それこそがこの人口減少という問題が一定の結論のない、未体験の出来事だということなんでしょうね。十人十色の文章を通して、新しい知見もえることもでき、またなにが論点になるのかもぼんやりと見えてきます。

  例えば、少子化の原因は、既婚女性の出生数の減少ではなく、第一に晩婚化・未婚化であり、これは自由と発展の代償であること(平川)。また高齢化については実際の負担は高齢者の比率ではなく高齢者の実数の問題であること、つまり、実は高齢化率が高くて人口が少ない地方よりも、多数の団塊世代を抱えている都市においてこそ今後の高齢者の介護負担が問題になること(藻谷)。AIが単純労働を代替することにより頭脳資本主義の時代がくるが、日本では相変わらず無価値労働(労務管理や資料作り)に振り回されている労働者が多いこと(井上)。縮小社会肯定論を目にすることが増えてきましたが、イギリスの実例から、縮小社会はやはりキツいこと。また、国家財政においては家計とちがい節約・借金返済は負の効果が大きいこと(ブレイディみかこ)。1970年代の人口予測がものの見事に外れた結果が約半世紀を経た現在の人口構成であることを考えれば、いまから半世紀後の2070年の人口予測がどうなるかわからない(小田島)・・・などなど、根底の人口減少傾向の持続に疑問を呈するレベルの話から、リフレ擁護論、AI、都市と地方・・・と、論点はさまざま。それぞれの文章は面白いのですがが、それだけ議論の方向もバラバラだということがよくわかります。AI論にも似てますね。

  人口減少についての識者の間での合意レベルがその程度なんだということが見えてきて、このスピード感でしかすすまない事態はおそらく長いこと続くのだなあ、と納得。少子高齢化にそれほどの対策があるとも思えません。われわれがいまそういう道程の中にあり、いま何が議論されているかを知る、そういう意味では貴重な一冊になっています。

  アンダーライティングにからめて言えば、人口減少は、保険加入者の減少・高齢化ということになるでしょうし、この先増えてくるであろう日本で働く外国人の保険加入ということにもなるでしょう。明治維新の時の人口が3500万、終戦時の人口が7500万だったことを考えると、人口急増の高度成長期こそが例外の時代だったということです。それは世界的にも同じ・・そんな本「例外時代」も紹介しておきます。来るべき定常状態に備えねば・・。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2018年10月)例外時代 高度成長はいかに特殊であったのか

例外時代

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