El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(30) 最近の若いドクターを理解するための必読書

最近の若いドクターを理解するための必読書

フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方 (光文社新書)
 

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています。査定歴21年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「最近の若いドクターはどうなっているのか?」・・わたしはこの本、大変勉強になりました。

アンダーライティングの職場にドクターが一緒にいるという場合も多いですよね。時には若い先生が同僚になることがあるかもしれません。最近の若い先生は・・・なんて年寄りのグチっぽく聞こえるかもしれませんが、医師の世界ではグチとばかりもいえません。なぜなら2004年を境に、医者になったのがそれ以前か以後かで大きな違いがあるのです。というのは、2004年から「新医師臨床研修制度」というのが始まったからです。この新制度で研修医は「下働きの何でも屋」から「お客さま」になっていたのです(知りませんでした)。

この研修制度のガイドラインによれば「研修医に雑用をさせてはいけない」「本人の同意のない時間外労働は禁止」「研修医がミスしても叱らず・・・」「研修医が体調不良やうつ状態を訴える場合は、指導医は仕事を減らしたり、休業させたりするべき(2年間で最大90日まで可)」・・・。これによって、わたしの研修医時代のような、まるで自分の限界をためされるような修行の日々は「パワハラ」「ガイドライン違反」の過去の遺物となり、初期研修時代は天国になったのです。

そして今、この天国のような研修医期間を終えた先生たちは、それ以前の医師とはちがうメンタリティーを持つ医師として実践の場(後期研修といいます)に入っていきます。ところが2年間の初期研修の間に「お客様」ながらも、医療の現場のリアルを知り、それまでもっていた夢や理想は大きく崩れてしまいます。夜中の呼び出し、患者からの理不尽なクレーム、訴訟対策の書類の山、これらに疲弊した先輩医師の姿を見て、いつしか医師になったときの情熱は醒め、冷静に収入やQOML(=Quality of My Life)の高い専攻科(具体的には皮膚科・眼科・精神科)を選ぶようになるのです。

また不景気や産業構造変化の先が見えない状況から食いっぱぐれのない職業として医師を目指す傾向もあり、女性医師も40%を超えるまでになっています。男女に限らず、医師にはなってみたものの、患者と接する段階になって「向いていない」と気づくことも多く、さまざまな形でドロップアウトしたり、フリーター化したりすることもしばしば。アンダーライティングの業界にもそんなドクターが?

著者の筒井先生は、50代のようですが、麻酔科医です。麻酔科は病院に所属しなくても仕事ができる(いわばフリーランス医師)ので、さまざまな病院で出会った若い医師の生態をあますところなく教えてくれます。さらに、返す刀で病院に巣くう、既得権にしがみついた老害医師も一刀両断。最近の大学病院や大きな病院の裏事情もマルわかりです。

まあ、自分も老害医師の一人なのかも・・・ではありますが・・・。ともかく、近くに若手のドクターがいるのであれば、あるいは若いドクターを採用するような立場であればこの本を一度読んでおくことは必須です。

本文中にある「ネットでサクッと確保できるような人材」は「ネットで見つけた次の病院(会社)にサクッと転職するリスクが高い」・・・まさに名言であります。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2018年9月)

関連本・サイトなど

 ・・・この漫画も新世代医師像がよくわかりオススメ!です。