El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(26)薬害vs 薬害でっちあげ

——薬害vs 薬害でっちあげ——

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新の知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしております。査定歴21年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「子宮頸がんワクチン」。薬害でっちあげが引き起こすワクチンアレルギー社会に警鐘を鳴らし続ける村中璃子氏の「10万個の子宮」を紹介します。

日本では年間に子宮頸がんのため摘出される子宮が1万個、子宮頸がんでの死亡者が3千人です。これらは子宮頸がんワクチン(抗ヒトパピローマウイルスワクチン)が広く接種されれば防ぐことができるものです。このワクチン、2010年頃に発売されたもので、ワクチンでがんを予防できるという画期的なものでした。日本でも当初は70%の接種率で、子宮頸がんの大幅な減少という明るい未来が見えたはずだったのですが・・・なんと、2013年4月、定期接種化された2ヶ月後に薬害騒ぎが燃え上がり「積極的な接種勧奨の一時差し控え」というよくわからない状態を厚労省が作り出しました。そのため接種率は激減し1%にまで落ちています。名古屋市の7万人の大規模調査では、被害者の会が副作用といっている症状の発現はワクチンを接種していない少女にも同じくらい起こっているという結果が出ているにもかかわらずです。

2013年3月に子宮頸がんワクチンの副作用で被害を受けたという被害者の会ができ、車椅子の少女たちが並んだ映像をマスコミを使って発信する中での「積極的な接種勧奨の一時差し控え」は、まるで副作用被害が真実であると国が認めたかのようなイメージを世間に与えました。被害者の会は2016年に国とワクチンメーカーを提訴。この手の薬害裁判は10年ほどかかるのが普通のようで、その10年間のワクチン空白のために将来、摘出される子宮が10万個・・・というのが本書のタイトルの意味するところです。

反ワクチン運動というのはどこの国でもあるようで、有名(といっても本書で初めて知りました・・不勉強)なのはイギリスでのMMR(麻しん・風疹・おたふく風邪)ワクチンで自閉症になるというデマに端を発したウェイクフィールド事件です。これは、自閉症児をもつ親を組織化してMMRワクチンを標的に賠償金を得ようとした弁護士とウェイクフィールド医師が捏造論文で引き起こしたもので本書にもくわしく書かれています。

著者の村中先生はおそらく反ワクチン派から相当な攻撃を受けているのでしょうが、それに正面から立ち向かう姿勢には強いパワーを感じます。あっという間に読み終わりました。熱い本を読みおえた感じです。しかし、北風と太陽ではありませんが、強烈な言葉の応酬になればなるほどアンチ派は納得することはないだろうなと思います・・・現に、Amazonのレビューでも90%の絶賛レビューと10%の全否定レビューが並んでいます。

最後にWHOが2017年7月に出した声明(下記関連サイト①の最後のパラグラフ)を引用しておきます。「子宮頸がんワクチンを適切に導入した国では若い女性の前がん病変が約50%減少したのとは対照的に、1995年から2005年で3.4%増加した日本の子宮頸がんの死亡率は、2005年から2015年には5.9%増加し、増加傾向は今後15歳から44歳で顕著になるだろう」(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2018年7月)

関連本・サイトなど
①WHO 

②村中璃子