El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

人口減少社会の未来学

人口減少社会、これだけバラバラな論説が出ることが、煮詰まらない証拠

人口減少社会の未来学

人口減少社会の未来学

  • 発売日: 2018/04/27
  • メディア: 単行本
 

人口減少社会の未来について、いろいろな視点からの知見をまとめた本を編みたいという内田樹の呼びかけに10人の論客+内田がさまざまな視点・立場から人口減少を論じたもの。10+1人の言っていることはバラバラという印象だが、それこそがこの人口減少が一定の結論のない、未体験の出来事だということだろう。十人十色の文章を通して、新しい知見もあり、なにが論点になるのかもぼんやりと見えてくる。

例えば、少子化の原因は、既婚女性の出生数の減少ではなく、一に晩婚化・未婚化であり、これは自由と発展の代償であること(平川)。また高齢化については実際の負担は高齢者の比率ではなく高齢者の実数の問題であること、つまり、実は高齢化率が高いが人口が少ない地方よりも、多数の団塊世代を抱えている都市においてこそ今後の高齢者負担が問題になること(藻谷)。AIが単純労働を代替することにより頭脳資本主義の時代がくるが、日本では相変わらず無価値労働(労務管理や資料作り)に振り回されている労働者が多いこと(井上)。縮小社会肯定論を目にすることが増えてきたが、イギリスの実例から、縮小社会はやはりキツいこと。また、国家財政においては家計とちがい節約・借金返済は負の効果が大きいこと(ブレイディみかこ)。1970年代の人口予測がものの見事に外れた結果が約半世紀を経た現在の人口構成であることを考えれば、いまから半世紀後の2070年の人口予測がどうなるかわからない(小田島)。

などなど、根本の人口減少傾向の持続に疑問を呈するレベルの話から、リフレ擁護論、AI、都市と地方・・・などなど論点はさまざま。それぞれの文章は面白いが、それだけ議論の方向もバラバラだということがよくわかり、人口減少についての識者の間での合意レベルがその程度なんだということも見えてくる。

こののんびりとしたスピード感でしかすすまない事態はおそらくこの先も長いこと続くだろうし、少子高齢化にそれほどの対策があるとも思えない。まさに座して成り行きをまつ・・我ら日本人。そういう道程の中にあり、いま何が議論されているのか、あるいはいないのか、を知る、そういう意味では興味深い一冊。