El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(21)抗生物質で太ります!

 ——抗生物質で太ります!——

失われてゆく、我々の内なる細菌

失われてゆく、我々の内なる細菌

 

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新の医学知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています。査定歴20年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回取り上げるのは腸内細菌。面白いです!

この本、「失われてゆく、我々の内なる細菌」というタイトルでは???ですよね。ところが一読してすっかり著者のブレイザー教授(ニューヨーク大学・2015年タイムが選ぶ世界で最も影響力のある100人)に心酔してしまいました。それまでは、テレビなどで腸内細菌の話題が増えてきていることはわかっていたものの、いまひとつピンとこないものでした。しかし、本書を呼んで腸内細菌と抗生物質とからめて考えるとすっかり腑におちました。

家畜のエサに低容量の抗生物質を混ぜていることはみなさん知っていると思いますが、その目的が「脂がのって体重が増えるから」だったとは驚きです。腸内細菌叢(=マイクロバイオーム)を抗生物質で撹乱すると体重が増えるということが仮説ではなく実際に畜産では実用的に使われているんです。抗生物質の歴史と肥満が急増してきた歴史はシンクロしており、抗生物質やファストフード→腸内細菌叢の破壊→肥満・うつ・糖尿病という流れの分子生物学的なメカニズムも解明されつつあります。特に小児期の抗生物質でマイクロバイオームが破壊されることや帝王切開でマイクロバイオームの形成が不十分になることや、ピロリ菌の除菌でも体重が増えること、などなど目からウロコな事実が満載です。

人類と細菌の共生関係は人類誕生以来はぐくまれてきたものです。もちろん結核やペストなど過去に致死的であった細菌感染症抗生物質で治療できたことはすばらしいことです。しかし、抗生物質の歴史はほんの50年にすぎません。抗生物質を工業的に大量に作り使用するという経験をしたのは我々からなのです。そうしたことが長期的にもたらす副作用があるとしたら、それをまた経験するのもまたこれからの我々なのです。肥満の急増はその最初の兆候なのかもしれません。

抗生物質の大量使用が人体と細菌の共生関係=マイクロバイオームを破壊し、多くの現代病を引き起こしているという考え方は、突飛なようにも見えますが、次第にその科学的なメカニズムが解明されようとしている・ ・ ・そんな時代の入り口にいるのでないかと感じるびっくりの一冊でした。

みすず書房の本は値段が高いのが玉にキズですが、本書を訳した山本太郎氏による岩波新書抗生物質と人間-マイクロバイオームの危機」は本書のコンサイス版という感じで読めます。さらにメカニズム面もというなら「うつも肥満も腸内細菌に訊け!」に進むと理解が深まります。腸内細菌・・・ちょっと目が離せない分野です。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2018年5月)

関連本・サイトなど

 

うつも肥満も腸内細菌に訊け! (岩波科学ライブラリー)

うつも肥満も腸内細菌に訊け! (岩波科学ライブラリー)

  • 作者:小澤 祥司
  • 発売日: 2017/11/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)