——60ページの必読書——
気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新の医学知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています。査定歴20年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは「B型肝炎」。
査定を始めた頃は危険選択の上ではB型肝炎よりC型肝炎のほうがずっと重要だと感じていましたが20年たって逆転してきました。最近になってBのキャリアの告知に遭遇することのほうが増えてきたのでなぜかなと思っていました。その事情をまずお話します。
BもCも血液を介して感染するのですが、Cは感染力そのものは弱く血液が直接血管内にはいるような濃厚接触が必要なのです。そのため母子感染もほとんどなく、輸血や注射器具がクリーンに使われるようになってからは新規感染がなくなりました。過去のC感染者が高齢化(感染ピークは太平洋戦争前生まれの集団)していくにしたがいCは過去の病気になっていったのです。いっぽう、Bは感染力がCより強く、戦後の乳幼児-学童の大量予防接種期の注射針・注射器による蔓延があり、さらに母子感染・性行為による感染がありえるため、今なお新規感染者が発生する可能性があります(1986年の妊婦スクリーニング後、母子感染はなくなりました)。
Bのキャリアの多くは戦後の予防接種による感染者と言われており現在50代~60代です。そして、ここ10年ほどは、このキャリアが出産し出生時に母子感染した子供世代キャリアが結婚・妊娠・出産期をむかえています。出産時の母子感染の予防策がとられていなかった1986年以前にキャリアの母親から生まれていれば母子感染してキャリアである可能性があります。また性的パートナーがそうしたキャリアである場合も感染している可能性があります。このようにBについては1986年以前のうまれかどうか、つまり2018年の時点で34歳より上か下かで明確な境があるのです。
B型肝炎訴訟が2011年に和解となり、国からの賠償がでることになりました。そのせいで弁護士・司法書士などがそれを商売のネタとしてネットや電車広告で喧伝していることも増えている原因といえるでしょう(和解そのものは医学的には不明瞭な部分が多く菅直人総理の政治的パフォーマンスの要素が多分にありましたが・・・)。
今回紹介する「B型肝炎 なぜここまで拡がったのか」はたった60ページ、520円の小冊子にすぎませんが、ここまで書いたすべてが腑に落ちるかたちでわかります。30分で読めて、必要なことがほとんどわかる驚きの良書です。参考に岩波新書の「肝臓病 治る時代の基礎知識」を読んでみましたが、専門医が総論的に書いたものはやはり退屈でした。本書はさらに、戦後の予防接種の歴史、B型肝炎訴訟の歴史、厚労省の予防接種(に限りませんが)行政のいいかげんさ、までもがすっきり理解できます。おすすめです。
教訓として・・・「自身あるいはパートナーが2018年時点で34歳以上であれば、一度はB型肝炎の検査を受けるべき・受けてもらうべき」ということは言えるでしょうね。新婚の30代カップルで夫が急性B型肝炎で入院、調べてみたらキャリアであった妻からの感染、さらに妻の両親もキャリアだった・・・ということもありえるわけですから(このケースはNHKの医療番組Dr.Gで紹介されていました)。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2018年3月)
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