El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブックガイド(16)アンダーライティングとAI ①

——アンダーライティングとAI ①——

人工知能の核心 (NHK出版新書 511)
 

気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新の知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています。査定歴20年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。今回のテーマは人工知能AIです。

AIをとりあげた本は巷にあふれています。AIの研究者・推進者が書いたものから、「あなたの仕事はAIに取って代わられます」と不安をあおるものまでサマザマ。「アンダーライター」もAIにとって代わられる職種として上位に取り上げられることが多いので不安に思っている人も多いのでは・・。ところが、書籍をいくつか読んでみてもAIについては本当に多種多様な意見が交錯していてよくわからない状態です。引き続きウォッチして面白い本を「アンダーライティングとAI」シリーズとして定期的に紹介して行きたいと思います。

こういう最先端すぎてはっきり見えてこないテーマのときにはNHKオンデマンドを利用してNHKスペシャルの関連番組を見るようにしています。ぴったりなのが、AIとの闘いの渦中にある「プロ棋士」はどう考えているのかという番組で「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」(2016年5月放送)とその続編「人工知能 天使か悪魔か 2017」(2017年6月放送)です。なかなか考えさせられました。しかし、テレビ番組は視聴率とるためかややセンセーショナルな表現もあり、じっくり考えることができません。

そこで今回はこの2つの番組の中間の時期にNHK出版から刊行された「人工知能の核心」という本を紹介します。番組を見逃した方にも最適な一冊。イギリス・アメリカと羽生善治が取材や対談を通して感じたこと、学んだことがちりばめられており興味深いです。「フレーム問題」などAIの弱点も見えてきます。

AIは保険のアンダーライティングができるでしょうか?数値で表される血圧や体格などすでに機械化されてる部分も多いのですが、人体というアナログなものを扱う医療が刻々と変化することを考えると、ルールが固定化している将棋や囲碁みたいなことにはなるとも思えません・・・。AIが告知書や診断書の行間を読める日がくるのでしょうか。

そういえば、本書中でもAIには接待将棋(例えば、相手に気づかれない範囲で手を抜いていい勝負している気分にさせてくれるようなこと)はできないとあり、このあたりの忖度は人間じゃなければ・・と感じました。医療そのものの不確実性につながる話かもしれません。

ここ数年で、将棋も囲碁もあっという間にAIに飲み込まれたかに見えました。ところが、将棋界・囲碁界はAIはAIとして人間同士の勝負はまた別のものととらえ、AIの指す手を人間同士の勝負にどう応用するか、という方向に進んでいるように思えます。われわれアンダーライティングを行う者も過小告知や美化告知という泥臭い世界で人間の優位を見出すのかな・・・。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2018年2月)

関連本・サイトなど

NHKスペシャル「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20160515
NHKスペシャル人工知能 天使か悪魔か 2017」
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20170625