——ワセダクロニクルへの道—―
気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新の医学知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、査定歴20年の自称査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。
今回紹介するのは、文化人類学をやっている女性がさまざまな局面で見られる医療の不確実性を描いた「医療者が語る答えなき世界」。最近、こうした文系研究者が自分の研究分野のこれまで書いた文章をまとめて新書の形で出版した・・・というものに出くわすことが増えています。「医療」&「答えなき世界」でタイトル買いしてしまいましたが、タイトルにふさわしいのは3部構成の第2部だけ、それも「ダビガトラン騒動」の部分以外は著者の印象の開陳にすぎないんじゃないのという内容で、ちょっと期待はずれでもありました。
それでもこの本を取り上げたのはこの「ダビガトラン騒動」を描いた20ページ部分が巻末の解説や引用文献も含めてかなり興味深いからです。特にネタ元と思われるワセダクロニクルの「買われた記事」のサイトは、「新聞や雑誌の医療系の記事が、実はスポンサーが新薬や新製品を売り込むことを目的に金をだして書かせている」ことを如実に示しています。一見、客観的なものと考えてしまいそうな新聞記事さえもが「買われて」いるという事実に、「やっぱりなぁ」という感想もですが、「何を信用していいのかわからない」という現代的混迷の中で生きているという現実に不安を覚えます。薬のことが書かれていたら「これって広告なんじゃないの?」と疑ってかからないといけない時代です。
非ワーファリン系の抗凝固剤(NOAC、ダビガトランやリバーロキサバン)が一時期ワーッと評判になりましたが、広告活動が急に目立たなくなった理由はこうした調査報道の成果なのかもしれません。こころある臨床医は高齢者にはワーファリンのほうをすすめるでしょうね、儲かりませんけど。まさに薬の世界はヤミ・・・ですねえ。本書は上記20ページを立ち読みするだけでもいいと思いますが、ワセダクロニクルのサイトは必読です。
巷では、パナマ文書やパラダイス文書が「調査報道」として公表されて話題になっていますが、ワセダクロニクルは早稲田大学ジャーナリズム研究所がこの「調査報道」なるものを実践すべく展開しているようです。その第一弾が「製薬メーカーと広告代理店に踊らされる現在の医療界の実態」というわけで、記事はなかなか良質です。医師として、アンダーライターとしてだけでなく、賢い消費者としても必読のサイトです。今回はブックガイドならぬサイトガイドになってしまいましたが、まあこうした展開も読書の醍醐味ですね。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2017年11月)
関連サイト
ワセダクロニクル