——夏祭り、カレーと言えば——
夏が来れば思い出す・・・和歌山毒物カレー事件が起こったのは1998年7月、もう20年近くになります(ああ、もうこの事件を知らない業界人もいるのでしょうね)。被疑者・林眞須美は2005年に最高裁で死刑が確定しているのですでに死刑囚ですが今も大阪拘置所に収監中です。被疑者やその母親が生保の営業職員だったことや夫(保険金詐欺で逮捕、刑が確定しすでに服役をすませ出所ずみ)が高度障害保険金を受け取った後にもまた新たな保険に加入できていたこと、などなど、生命保険や損害保険との関わりも当時話題になりました。このまま風化してしまう前にということでしょう、タイトルも「悲素(ひそ)」としてこの事件を記録するセミ・ドキュメンタリーが出版されています。これこそ医学と生命保険の両方に関わっているわれわれこそが読んでおくべき一冊です。
「悲素」は「三たびの海峡」などの作品で知られ精神科医でもある帚木 蓬生(はわきぎ ほうせい)氏の久しぶりの医学小説です。帚木氏が地元の医師仲間でもある井上尚英九州大学名誉教授からカレー事件やサリン事件に捜査協力した際の鑑定資料一式を託されたことが執筆のきっかけです。井上尚英先生は日本に数少ないヒ素中毒の第一人者でもあり、その彼に和歌山県警から極秘の鑑定依頼があった1998年8月から2009年5月の死刑確定前後までを小説として描きます。
カレー事件だけでなく、17世紀にイタリアで販売された初の毒物「トッファーナ水」や、毒殺史を塗り替えた「マリー・ラファルジュ事件」、またヒ素による自殺を克明に描写した「ボヴァリー夫人」やアガサ・クリスティ「蒼ざめた馬」を読んだ毒殺魔グレアム・ヤングのエピソード、さらには、タリウムやサリンなど日本の毒物事件の詳しい解説もあり、毒物と犯罪の歴史を学ぶこともできます。
安易に高度障害保険金の診断書を書く医師の存在、被疑者が保険のしくみ、特に支払われる際の査定の抜け穴を知りつくしていることなど、われわれ査定者も認識しておくべきことがたくさんあります。保険の販売チャネルが多様化し販売サイドのロイヤルティが期待しにくくなりつつある今こそこうした事件の記録から学ぶことは多いでしょう。(by 査定職人 ホンタナDr. Fontana 2017年9月)