El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

ブラッドランド

淡々と書かれる大量殺戮の歴史
これもまた人間が引き起こしたこと

 スターリンヒトラーの狂気が何度も往復した地域、それがロシアとドイツの間の地域、具体的にはポーランドベラルーシウクライナバルト三国・ロシア西端部。この地域で1930年代から1945年の間に1400万人が実際の戦争活動ではなく殺された。スターリンの粛清・収容所送り・飢餓政策・ポーランド分割・独ソ戦ではまずはドイツによるそして最後にはソ連による殺戮。これに双方のユダヤ人政策が深くかかわる(この地域がもっともユダヤ人が多く住んでいた地域なのだ)。それぞれ、個別の残虐な出来事としては知ってはいることでもあるが、それらが十数年の短期間に同じ地域で寄せては返す波のように人々の上に降りかかってくるとは・・・。さらに、そうした事実が、その後のこの地域のソ連化で歴史の闇の中でぼんやりとしてしまっていた。

ソ連の崩壊などもあって、綿密な史料の分析ができるようになったということなのだろう。1400万人という具体的で圧倒的な数字が示す、人間の死の歴史である。それぞれの殺戮にはどのような意図があったのか、あるいはどこからがなし崩しだったのか、それもよくわかる。ユダヤ人の苦難、ポーランドベラルーシウクライナという双方の草刈り場となった地域の苦難、それは、100年程度で解消されるわけもない。

戦後教育でソ連としてロシア・ウクライナ白ロシアはほぼひとくくりで語られる教育を受けてきた自分にとっては歴史の真実を知らされた思いである。そして、ソ連が崩壊して、この地域はまた不安定化しているような気もする。プーチンが現代のスターリンにならないという保証はない。