El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

影武者徳川家康

60代の人生はこれほどアクティブであり得るー作家も家康も

影武者徳川家康 上中下巻セット (新潮文庫)

影武者徳川家康 上中下巻セット (新潮文庫)

  • 発売日: 1993/08/25
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史実と仮説をうまく組み合わせて一流のエンターテインメント性を持たせながら、学問的興味も喚起する作品。小説の作り方、という点でも興味深い。多くの知識に裏打ちされているからこそでもあろう。著者自身によるあとがきや縄田一男氏の解説も読み応えある。シナリオライターを長年やっていたとしても60歳を過ぎてからの作家活動でこれだけの作品を生み出したことは驚異的でもある。

関ヶ原の戦いの時、家康は59歳だったということも、改めて感慨深いものであった。50代後半の自分が人生に倦んだようなことを考えているのが恥ずかしい。家康にせよ小説のごとく影武者であったにせよ、そこから15年、現役として様々な活躍をし、三人の子まで作っている。自分の安逸な人生設計を恥ずかしいと感じるくらいである。

60歳過ぎての作家人生で家康(影武者ではあるが)の60代以降の頑張りを描く。定年前のサラリーマンにとって、この先の人生ももっとアクティブであるべきであるとの励ましの書でもありえる。