El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

おろしや国酔夢譚

 流れるようなストーリー・テリング

新装版 おろしや国酔夢譚 (文春文庫)

新装版 おろしや国酔夢譚 (文春文庫)

  • 作者:井上 靖
  • 発売日: 2014/10/10
  • メディア: 文庫
 

新幹線の車中、ずっと井上靖の「おろしや国酔夢譚」を読んでいた。これがおもしろいし、本当に読みやすいのだ。読みやすい、とはどういうことか、それはすらすらと頭に入ってきて理解もできるということだ。この感覚はあまり経験がない。例えば、他の作家の文章だと、どうしてもその書き手の自己主張が先に立って、そこに書かれたことが、物語というよりは、作家の主張に思えてしまうのだ。例えば司馬遼太郎でもそお傾向は強い。

もちろん、井上靖が書いたものの中にも彼の主張はあるのだろうが、それが極めて自然に物語の中に落とし込まれているのだろう、読み手は物語世界にとっぷりと浸ることができるのだ。井上靖の文章の秘密。まだまだ読んだ量が少ない。しかし、ここまでの歳になっても文学世界で発見があることは嬉しいし、老後の未来への希望とも言えるような気がしてうれしくなるのだ。