あの戦争は人口爆発によるものだった・・・
タイトル通り日米戦争を取り上げているものの、後発近代化→人口増大+階級格差→庶民の食料不足→対外進出圧力→非理性的な戦争へのなだれ込み というある意味普遍的な流れを数字をあげながら丁寧にかつ理系的な語り口で説いてくれる良書。
さらにすでに戦争のかなり前から明治維新後の日本の人口増加は必ず世界的災難をもたらすという認識が日米双方の学者レベルでは存在したことは驚きであり、このことは日本人はもっと知っておくべきだと思う。
なぜ負けるとわかっている戦争に突入したのか、その国全体を覆っていた狂気が「メシが食えない」ことだという話は腑に落ちる。そして「メシが食えない」原因を人口魔と階級魔という言葉で説明する。ヨーロッパはすでにこの二つの魔を新大陸への移民と市民革命でクリアしていたが、すでに新大陸がない世界で人口増大に見舞われた日本は満州へ。人口と戦争の関連性は知ってはいてもたとえばルワンダのような特殊な状況のことと思っていた。そうではなかった。
そして今、人口急増するアジア・アフリカの国々。それらの国の人々は本当にメシが食えるのか、食えなかったらどうなるのか、恐怖でもある。
近代化の流れは「国民間の階級差を国家間の階級差」で解決するものであった。そして今、国家間格差を利用して、工業製品を作り輸出することで国民を食わせていた日本にとって、韓国・中国・インドが工業化していくということは、輸出ができなくなり、日本は国民を食わせられなくなっていきつつあるのではないか。
戦前日本と同じような生きづらさが最近広がっていると著者はいう。そして「同じような」とはいえ、若年者が過剰人口であった戦前と高齢者が過剰人口である現在、当然同じようには考えられず、今後の日本は穏やかな衰退をたどりながら食えない分だけ(自分も含めて)無駄に長生きせずに、しかし、生きているうちは穏やかにすごう。そんな社会を目指すのだろうか。著者の他の著作にヒントがあるかもしれない。