El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

老いへの不安 歳を取りそこねる人たち

年寄りブックガイド

老いへの不安 歳を取りそこねる人たち

老いへの不安 歳を取りそこねる人たち

  • 作者:春日 武彦
  • 発売日: 2011/04/07
  • メディア: 単行本
 

老いをテーマにした精神科医としての雑文と、著者好みの老いを描いた小説やエッセイの紹介がいい塩梅で混じっていて、ちょっとした年寄りブックガイドになっている。それらの引用文を読んで、「ああ、読んでみたい」と思わせるのは著者の切り口が鮮やかだからだろう。現実に遭遇した精神科の患者のエピソードが挟まれていることがリアリティを保たせながら、そればっかりではなく、他者の文章を引用することで広がりも感じる。そういう意味では後半までこないとしっくりしてはこない。それにしてもよく読んで、自分好みの読書経験を記憶しているものだ。
著者の精神科医としての軸足の本も何冊か読んでいるが、それらもこの本のようなエッセイ的なものも微妙に揺れて冷静ではないところに共振してしまう自分はやはり同年代ということか。彼の言うところの「年寄り」を目指して、いや、目指してはなれないのだ、自然にそうなること。