年寄りブックガイド
老いをテーマにした精神科医としての雑文と、著者好みの老いを描いた小説やエッセイの紹介がいい塩梅で混じっていて、ちょっとした年寄りブックガイドになっている。それらの引用文を読んで、「ああ、読んでみたい」と思わせるのは著者の切り口が鮮やかだからだろう。現実に遭遇した精神科の患者のエピソードが挟まれていることがリアリティを保たせながら、そればっかりではなく、他者の文章を引用することで広がりも感じる。そういう意味では後半までこないとしっくりしてはこない。それにしてもよく読んで、自分好みの読書経験を記憶しているものだ。
著者の精神科医としての軸足の本も何冊か読んでいるが、それらもこの本のようなエッセイ的なものも微妙に揺れて冷静ではないところに共振してしまう自分はやはり同年代ということか。彼の言うところの「年寄り」を目指して、いや、目指してはなれないのだ、自然にそうなること。