El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

「ファインマン物理学」を読む

三島やドストエフスキーを読みつづけていると思考のバランスが壊れていく気がする。人間心理という不安定なものをこねくり回すことに疲れていく。つまりそれらの小説を成り立たせている魅力そのものが健全なものとは言い難いということだろう。そういう時にすっきりするのはサイエンスだ。先週「「ファインマン物理学」を読む」をざっと斜め読みしてそこから虚数の世界にはいり「オイラーの贈り物」となり、長男に「虚数の情緒」を送った。虚数の乗周期性と三角関数の角度周期性を結合させることでeのiπ乗がマイナス1というとんでもない式になることを人間が考えついたことが驚異だと思う。その驚異をはしょった形ではあるが知識として頭の中に入れられる幸福感、これは学生の頃に新しい定理を覚えることのよろこびそのものだ。医学・保険医学はサイエンスというよりは社会学の側面が強く、それに携わっていることで失われつつあったサイエンスそのものの喜びを再び感じることができた。そのきっかけが大井の山から見た月だったことは奇遇であり人生いたるところ青山ありを地で行くことになった。