El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

奈良登大路町・妙高の秋 / セザンヌの山・空の細道

二・ニ六事件を扱ったNHK特集をNHKアーカイブスでみた。当時の陸軍の大きな勢力争い(統制派と皇道派)という枠組みがあって、皇道派の首領たちが青年将校を傀儡として事件を起こしたが、結局統制派につぶされたので北一輝青年将校にすべての罪をかぶせて処理した、というのが真相というような内容。こういった一連の内部権力闘争をやることで陸軍はむしろ政治的発言力を増していったというのがこの時代の真相。やくざが一般人の前で内輪もめしてみせてこわがらせるのと同じ手法。そういう国なのだよ。
結城信一セザンヌの山・空の細道」の中の短編をいくつか読む。これはつらい。あまりにも死に近くて暗い気分になる。島村利正がよかったので同じ第三の新人として期待していたが今の自分とは相容れない。もっと歳をとれば共感できるのかもしれないが。島村利正の小説世界は心理的なじめじめさを感じさせずに市井の人生を短く描いてついには人生の本質に迫るといううまさが光る。一冊一万円の4冊の全集がほしい。
奈良登大路町・妙高の秋 (講談社文芸文庫)

奈良登大路町・妙高の秋 (講談社文芸文庫)