El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

いつか王子駅で

 

いつか王子駅で (新潮文庫)

いつか王子駅で (新潮文庫)

 

 はっきりしない天気が続いている。3月も押し詰まり人事異動の影響もあって人手不足。十分に記録をつけられない日が多くなっている。残された記録もおおかた平板的で読むに耐えない。
そう思ったのは堀江敏幸「いつか王子駅で」を読んだから。これは創作の形をとった日記、あるいは書評集めいたものであるのだが、作者が好きな本

  • ジャック・オーベルティ「モノラーユ」
  • 島村利正「残菊抄」ほか
  • 安岡正太郎「サーカスの馬」
  • 徳田秋声「あらくれ」
  • 赤羽末吉「スーホーの白い馬」

と、競馬の思い出をちりばめながら今の日常を描き出す。こういう読書記録を私も書きたいと思った次第。読書記録が主で日常の記録はほんの少し、その日読書以外に何があったかだけ思い出せればそれでよい。最後の200メートル走の場面では、織田作之助の「競馬」を思い起こさせるような気合の入った表現。