El librero la Fontana・ホンタナ氏の本棚

人生の最後を一番美しく過ごすのは、いつの日か、田舎、といっても町からあまり離れていないところに隠居し、今までに愛読した何冊かの本を、もう一度、書き込みなどしながら読み返すことだ。           (アンドレ・モーロワ「私の生活技術」より)

医者はジェネリックを飲まない

 大したことは言ってないが・・・たび重なるジェネリック不祥事は・・

医者はジェネリックを飲まない

医者はジェネリックを飲まない

  • 作者:志賀 貢
  • 発売日: 2019/10/10
  • メディア: 単行本
 

本来なら特許が切れた薬と同じものを作って安く売れば商売になるはず。ところが、医薬品の場合は、多くが健康保険からの支払いになり実際の患者負担がそれほど変わらないようにしか見えないために、医師の中にも、患者の中にも、あるいは薬剤師の中にも、国会議員の中にも、ジェネリック嫌いが存在する。で、本書の著者もジェネリック嫌いの理由をさまざま列挙する。

一方で、ジェネリック薬を売っている側にも、胸をはって先発品と同じと言えるかというとそうでもない。2020年にはジェネリック薬の製造過程で他薬剤が混入し死者が出たし、2021年になって大手のジェネリック薬メーカーが長年の製造不正で営業停止になったりした。まさにジェネリック嫌いに塩を贈る結果に。

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以下、余談だが

これは日本だけの問題ではない。処方薬の90%がジェネリックとなっているアメリカでは、インド製ジェネリックのあまりにもいい加減な実態を曝露する本(「Bottle of Lies」by Katherine Eban)も登場している。日本語訳は未刊行だがNewsweekのまとめ記事は日本語で読める。

はたまた、日本では一時期偽造品まで出て

話題になったHCVの特効薬ハーボニー

の尋常ではない薬価についてはインド製のジェネリック(?)(横流し?)による、弱者救済というドキュメンタリーもある。

ことほどさように、ジェネリックがらみの話題は豊富なのだが、日本ではまだ俯瞰的な本がなく「ジェネリック」で検索するとこんな本しかみつからない。

 

ジャズ批評 2021年 03 月号

 Amazon Music HDのAIが先回り

ジャズ批評 2021年 03 月号 [雑誌]

ジャズ批評 2021年 03 月号 [雑誌]

  • 発売日: 2021/02/25
  • メディア: 雑誌
 

毎年3月号のMy Best Jazz Album ランキングを参考にしてサブスクで聴く音楽を選んでいるのだが、そんなことを繰り返しているとAmazon Musicのおすすめ選曲AI(?)に先回りされるようになってきた。例えば本書のベスト・ボーカルのトップ3はすでに、とうの昔にAmazon Musicに勧められてお気に入りアルバムに登録済みであった。いいものはいい、と確認できたということでもあるが、フィルターバブルの中で踊らされている感もある。ちなみに上記のベスト3は以下のアルバムだ。

サンセット・イン・ザ・ブルー(SHM-CD)

サンセット・イン・ザ・ブルー(SHM-CD)

 
You Should Have Told Me

You Should Have Told Me

  • アーティスト:Various Artists
  • 発売日: 2020/11/20
  • メディア: CD
 
This Dream of You

This Dream of You

  • アーティスト:Diana Krall
  • 発売日: 2020/09/25
  • メディア: CD
 

 

ブックガイド(91)――Z世代≒コロナ世代――

 ――Z世代≒コロナ世代――

 気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトでブックガイドしています、コロナ禍の中、新年度になり査定歴24年に入りました、査定職人ドクター・ホンタナ(ペンネーム)です。4月、新入社員の季節ですね。つい最近までは「ゆとり世代」が新入社員でしたが、最近の新入社員は、今回のテーマ「Z世代」なんです。「Z(ゼット)世代」とはゆとり世代(1987~1995生まれ)の後の世代のことで1996年以後に生まれた世代です。最近、耳にすることが増えてきました。

そこでZ世代理解のための1冊、「若者たちのニューノーマル 世代、コロナ禍を生きる」を紹介します。「Z世代」という世代論を超えてアフター・コロナの時代に向けた希望も感じさせてくれる不思議な魅力を持った本です。

前半が小説風フィクションで49歳の父親と21歳の息子が肉体だけ入れ替わる(「転校生」や「君の名は。」でおなじみ手法)という設定です。父親がZ世代になりすましてZ世代の日々を体験します。Z世代はスマホ・ネイティブ、SNSネイティブという、いわばデジタル革命の申し子世代であり、それ以前の世代の延長線上ではうまく捉えきれないところがあるのです。ところがこのフィクションを読むことで私もZ世代の感覚を疑似体験できました。そこでわかるのは、まさにコロナ禍の中での若者インタビューを通して著者が感じた最大のポイントは「いま社会で求められていることはZ世代が、コロナ前から求めてきたことだ!」ということです。


印象的な部分を引用します―――(309-310ページから引用)

富よりも「人間らしい生き方」を追い求め、自分や家族、周りの友人・知人の健康と幸せを願う。あるいは、経過より結果を意識しながら生き、働く。業務や健康管理を数値で「見える化」し、中長期的なコスパを実現しようとする。動画やSNS、オンラインを効率的に使いこなし、いつでもどこでも誰とでも、既存の枠を超えてグローバルにつながれる環境を創りあげる・・・・・。(中略)コロナ禍ですっかり一般化した、テレワークや副業解禁、人材シェアリング、ジョブ型雇用なども、以前から「本腰を入れて、取り組まないと」と、繰り返し求められてきたことでした。(中略)にもかかわらず、私も含め大人たちは「まだもう少し、先のこと」だと思っていました。

Z世代が、これほど身近で「もう時代は変わったんです」「僕たちが人間らしい生き方を標榜するのは、決して『小さくまとまっているから』でも、『欲がなさすぎるから』でもないんですよ」と、ニューノーマルな価値観を発信し続けていたにもかかわらず、です。―――――(引用終わり)。


コロナ危機、早く収束して以前の社会に戻りたい・・・と思っている人も多いと思いますが、コロナ直前の日本って少子高齢化や巨額の財政赤字で煮詰まっていたじゃないですか。そんな社会の閉塞感を一番感じていたのがそこにこれから放り出されるZ世代だったのです。ところが、コロナ対策ということで、テレワークやオンライン授業、企業や人の地方移転といった多くの変化がコロナ以前では考えられないスピードで進行しています。そして社会はもうもとには戻らずこの変化の行きつく先が新しい社会の標準(ニューノーマル)になっていく、そんなZ世代的未来図が現実的になってきました。

さらに巨視的に見れば、Z世代に限らず日本社会にとってもコロナ禍を克服することが煮詰まった日本社会を打開し次の時代を迎えるためのきっかけになるかもしれない―そう考えるとコロナ禍でもいくらか明るい希望が持てます。

中世のペスト大流行ではヨーロッパで2000万人から3000万人が、全世界でおよそ1億人が死亡したと推定されています。しかし、この破壊が人口の構成と分布を変え、教会のような権威を失墜させ、古い仕組みが機能しないことをさらけ出し、ルネサンスにつながりました。コロナ禍も次の世界への地ならしになるのではないでしょうか。そしてアフター・コロナの時代になったとき、そこに現れるニューノーマルはZ世代的であり、彼らこそが変革の中心にいるのでしょう。(査定職人 ホンタナ Dr. Fontana 2021年4月)。

晩年のカント

 いずこも同じ秋の夕暮れ

晩年のカント (講談社現代新書)

晩年のカント (講談社現代新書)

 

科学の時代に生まれた私にとって、カントの認識論は、頭の中がくるりとひっくり返るような経験ではありました。74歳になった哲学者中島義道氏がその「純粋理性批判」から30年以上を生きたカントの70歳以降の人生をなぞり自分の哲学者人生を重ね合わせる。哲学者どうしの論争というディスりあいが面白い。SNSのない時代、手紙や著作でやるんだから大変だ。結局、老境にはいれば、自説にしがみつきながら思考を停止し死に向かう。

63歳で手に入れた初の持ち家も死後にはすぐに売り払われ居酒屋になり、一生出ることなく過ごしたケーニヒスベルクという都市も消滅してしまった。まさに諸行無常

哲学者でもない読者(私も)にとっては最終章「老衰そして死」からカントの言葉を引いておこう。

「自分の一生の大部分を通じて苦しみ、したがって毎日が長くなった人間が、しかも人生の終わりに至って生の短きを嘆くという現象は、なんと説明したらよいだろうか」

「計画に従って進行し所期の大いなる目的を達成する仕事によって、時間を充実させるということは、自分の人生を楽しくし、同時にしかしまた人生に飽きるようにする唯一の確実な手段である。」

「君が考えたことが多ければ多いほど、君がなしたことが多ければ多いほど、それだけ長く君は生きたことになる」

 

戦争小説家 古山高麗雄伝

 人生のクロスロード

戦争小説家 古山高麗雄伝

戦争小説家 古山高麗雄伝

 

古山高麗雄が2003年3月になくなってNHKで「一兵卒の戦争」というドキュメンタリーをやったのが2004年8月。その番組を見て2004年9月に「断作戦」を読んでいる。その後も彼の戦争小説を読んできた。

今回、彼の評伝を読んだ。彼の人生と私の人生、二つのクロスロードがあることを知る。まず、彼の父は私の大学の大先輩だった。父、古山佐十郎は第二高等学校(仙台)から九大医学部の前身である京都帝国大学福岡医科大学にすすみ卒業後、大陸の満鉄病院に勤務、さらに満州に隣接する朝鮮の新義州で開業し成功した。高麗雄は新義州で生まれ育った。

そして、高麗雄がなくなった家が相模原の上鶴間であった。私は1998年3月から2008年3月までまさにその上鶴間に住んでいた。高麗雄の家は東林間駅から徒歩5分とあるので私の住まいからは500mくらいは離れていたのかもしれない。私が住んでいた間、1999年に妻が死に、高麗雄は仕事場にしていた南青山のワンルームを引き払い上鶴間にもどってきて4年後に上鶴間で亡くなり、北里で解剖された。

私が住んでいる町内でまさに古山高麗雄が息を引き取ったのだった。

高麗雄の父の故郷、宮城県苅田七ケ宿町「水と歴史の館」に高麗雄ゆかりの品々が展示されているらしい。一度訪れてみたいものだ。

 

イギリスの歴史が2時間でわかる本

 わかる!

イギリスの歴史が2時間でわかる本 (KAWADE夢文庫)

イギリスの歴史が2時間でわかる本 (KAWADE夢文庫)

  • 発売日: 2012/04/17
  • メディア: 文庫
 

シェイクスピアの史劇をBBCがドラマ化した「ホロウ・クラウン 嘆きの王冠」シリーズを楽しむために予備知識として読んでみた。プランタジネット朝ランカスター朝ヨーク朝チューダー朝、100年戦争にばら戦争、まさに日本で言えば太平記みたいな話で、親戚どうしが王冠をめぐって殺しあい、人間関係が入り乱れている。それがこの本を読めばスッキリわかる。挿入図も適切でわかりやすい。十分な予習になった。

通史だけでなく、意外な挿話①エリザベス1世DSD(性発達障害)?②首相ウォルポールが在任期間中に巨万の富を築き収集した美術品はロシアが買い上げてエルミタージュのメインをなしている。③現在のチャールズ皇太子の後妻カミラ夫人は皇太子の5代前の王エドワード7世の愛人の曾孫。④王冠を賭けた恋で退位したエドワード8世とその妻はファシスト寄りだった。など、意外なことが書いてあり面白かった。

イギリスが世界帝国となったのは産業革命もあるが、その前段階の奴隷貿易(いわゆる三角貿易)による富の蓄積の方を重視する「世界システム論」をきちんとふまえた記述もあり、お気軽なタイトルで読みやすいが侮れない良書。シェイクスピアだけでなくホームズやディケンズを楽しむときにそばにあると良い。

 ホロウ・クラウン 完全版です。全7disc+ボーナス。

医者は患者の何をみているか

かなりポエム、期待を裏切る

「プロ診断医の思考」というサブタイトルだけど・・・この本を読んだ一般人は、プロ診断医の思考方法は、プロ診断医、少なくとも医師にしかわからないだろうと思うのではないか。プロはシロウトとは違うんだよ、こんなふうにも違うし、あんなふうにも違う、だけど違うって言ってもそれさえきっとシロウトにはわからないよね・・・と言っているような。

因数分解で一般人は最大公約数レベルで考え、プロ診断医は最小公倍数レベルで考える・・・みたいな比喩に始まり、延々と続く独特のレトリックで読むのが大変。編集者がこの本の内容を本当に理解しているのか疑問だ。

例えていえば、スペイン語が分からない人に「あなたはスペイン語がわからない」とスペイン語で言っているような本。

同じ著者の「仮病の見抜き方」は、症例豊富でそれなりに面白かったが、今回の本を読んで考えてみると「仮病・・」にも確かにポエムっぽい部分があったな。今回の本は終始、哲学的な診断学論で誰を対象語るのか不明瞭・・・残念。

どんな分野でもプロゾーンになると、白黒つけられない、確率論的、両論併記、是々非々などなど、表現方法はいろいろあるが、グレーゾーンをうまくさばく力があるのがプロということなのではないか。